バンビ物語 (前編)

鈴々舎馬風一門 入門物語

バンビ物語 (前編)

幼少のころ。長じて落語の世界に入り、「鈴々舎バンビ」となる

柳家 三語楼

執筆者

柳家 三語楼

執筆者プロフィール

憧れと迷いの狭間で

 思い起こせば、少し変わった子供でした。

 保育園では「お坊さんになりたい」と坊主頭になり、小学生の頃は相撲にハマって行司になりたいと言い、時代劇が好きで『水戸黄門』が大のお気に入り。黄門役の東野英治郎さんに憧れる小学生でした(東野さんには今も憧れています)。

 そして、着物などの和物が好きになった流れで、落語にも興味を持ち、中学一年の正月、親に初めて連れて行ってもらったのが、昔の池袋演芸場。短い持ち時間で噺家さんや色物さんが次々と出てきて客席を沸かせては、スッと引っ込むカッコよさ。「落語って面白いなぁ」と、今度は噺家に憧れるようになりました。

 当時は、バンドブームの真っ直中。友達は、BOOWYやプリンセス プリンセスを聞いているのに、一切見向きもせずに、図書館で落語のテープやCDを借りて聞いていた私は、かなり浮いていたようです。そして、漠然と噺家になりたいと思っていたものの、修業は大変そう……。野球部も仮入部三日で辞めたような根性なし。そんな自分には到底、無理だろうなと、なかば諦めていました。

 その後、鉄道にも興味があったので岩倉高校に入学しましたが、鉄道員にはならずに、噺家になるつもりでした。しかし、同級生の就職や進学が決まった頃になっても、「やっぱり、噺家は無理だよなあ」とウジウジと悩み出します。

 結局、一年間ブラブラして建築の専門学校へ進学し、建築会社に就職しますが、現場は仕事も人間関係もきつく、休みも少なく、現場と自宅を往復するだけの日々。そして案の定、一年半で惜しまれることもなく退職。

 まだ噺家になりたい気持ちはあったものの、またしても勇気が出ずに諦め、フリーター生活を続けながら好きな落語を聞いていました。