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玉川太福 私浪曲 唸る身辺雑記(玉川太福 著)

杉江松恋の「芸人本書く派列伝 -alternative-」 第1回

史上初のライブ版浪曲集が切り開く新境地

 そういえば、最初に本書の歴史的価値について書いた。言い忘れていたので、そのことを最後に書いておく。

 探してみると浪曲は、意外と台本集が多い。大衆芸能として支持されていたからで、速記本と称するものも多数出ている。ただし、それらは基本的に台本から起こしたもので、本当のライブ版ではないはずである。演じられた舞台の臨場感は伝わってこない。浪曲の眼目が節と啖呵の相互作用で観客を気持ちよくさせることにあるからだろう。外題付けなどの節は、それを知っている者なら頭の中でメロディが再現されて自分でも唸ることができる。浪曲の出版物には、それが求められていたのだ。

 過去の速記本と称するものと本書の違いは、(笑)(爆笑)などの記入がないことである。そこでお客さんが笑った、ということが記されていないのである。笑いの要素が浪曲では重視されていなかったということもあるだろう。(泣)(号泣)とかは、もしかすると探してみたらあるかもしれないが。

 そんなわけで本書は、史上初めて本当のライブ版として世に出た浪曲集の一冊なのである。落語の速記本と同じ感覚で読める浪曲本がついに誕生した。

(以上、敬称略)

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  • 書名 : 玉川太福 私浪曲 唸る身辺雑記
  • 著者 : 玉川太福
  • 出版社 : 竹書房
  • 書店発売日 : 2025/1/18
  • ISBN : ‎ 9784801941953
  • 判型・ページ数 : 四六判・256ページ
  • 定価 : 2000円(本体1818円+税10%)

(毎月19日頃、掲載予定)