2025年5月の最前線(芝居に映画に、神田松鯉一門の活躍)

講談最前線 第1回

神田鯉花が映画で見せた自然体の演技力

 一方で妹弟子の神田鯉花は、映画『あて所に尋ねあたりません』で主役を務めた。次代を担う若手映画作家を発掘・育成する文化庁の委託事業の一つ「若手映画作家育成プロジェクト」により、2024年度に制作された短編作品の一つで、監督・脚本は、たかはしそうた。

 派遣労働者として仕分け倉庫でひたむきに働く三石瑞穂が鯉花の役どころで、同僚の男性が退職すると知り、自分の思いを認めた手紙をやっとの思いで渡すことができたが、その手紙を置き忘れられてしまう……といったストーリーだ。

 タイトルの『あて所に尋ねあたりません』とは、郵便物が指定された住所に配達できなかったことを示す表現で、受取人がその住所にいないために返送される意味合いがある。瑞穂は自分の思いを相手に伝えようとするが、相手の心はそこにあらずで、後半になり、自分と同じように不器用でありながらも、何故か気になって仕方がない新たな男性が現われて、その彼と波長が合う。そんな静かな展開の中での心の「動」といった点を見事に、と言えば聞こえはいいが、鯉花の自然体を活かした形で、作品の持つ独特な雰囲気を描き出し得ていた。

 作品自体は若手映画作家を育成するという事業であり、また放映も30分という時間であったので、監督兼脚本のたかはしそうたが今後どんな作品を築きあげていくのか。そして今は講談の道を一歩一歩進んでいる神田鯉花が今後、映画作品に出演することになった際に、どんな演技を見せるのか。

 兄弟子松麻呂の演技力とともに追いかけていきたいし、鯉花主演作品も同様に観ていきたい。いや、本当に。

神田鯉花が主演『あて所に尋ねあたりません』

▼たかはしそうた『あて所に尋ねあたりません』HP

https://ndjc.bunka.go.jp/ndjc/6378/