バンビ物語 (前編)

鈴々舎馬風一門 入門物語

少しでも明るくはじけられるように

 前座見習い生活がスタートし、しばらくするとお内儀さんが「鈴々舎バンビ」という芸名を付けてくださいました。

 思い詰めて入門した当時の私は、たいそう陰気で、師匠やお内儀さんの前では緊張して上手く喋ることも笑うこともできませんでした。それを心配したお内儀さんが「少しでも明るくはじけられるように、そして皆様に覚えてもらいやすいように」と付けてくださった芸名でした。

 その頃、「馬風師匠のところにバンビという可愛い女の子が入門したらしい」と噂になっていたようで、三ヵ月後に楽屋入りして、ほかの師匠や兄(あに)さん方にご挨拶すると、「何だ、男じゃねぇか」と落胆されたことは一度や二度ではありませんでした。それ以後、噺家の噂は信用しなくなりました。

 前座時代は、朝八時に師匠のお宅に伺い、まず掃除です。それまで私は掃除などほとんどしたことがなく、雑巾の絞り方、掃除機のかけ方、茶碗の洗い方もお内儀さんから丁寧に教えていただきました。

 師匠のお宅には高級な器がたくさんあり、たち吉の皿などもよく割りました。でも、相撲のお土産や酒屋さんでいただいた皿は頑丈で割れないんですよね。「高いお皿ばかり割らないでね」とお内儀さんにお小言を言われたものです。

1996年、二十歳くらいの頃

(後編に続く)