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旅路はすべて酒のなか

三遊亭司の「二藍の文箱」 第2回

旅路はすべて酒のなか

富山発 特急ひだ14号 名古屋行き(画:ひびのさなこ)

三遊亭 司

執筆者

三遊亭 司

執筆者プロフィール

新宿駅、午前7時の生ビール

 朝の7時。新宿駅東口改札を出て、地下道へ降りる階段手前、Beer&Cafe BERG(ベルク)で壁紙に貼られているあれやこれやを読みながら生ビールを飲んでいる。朝食を食べるひと、パソコンをひらき仕事をしているひと、わたし同様、朝からビールやワインをキメるひと、それぞれなのが、いい。

 コーヒーを飲まない、その上、香りが苦手で喫茶店も苦手。なので、新宿で時間をつなぐ時にはベルク一択だ。混んでいても、よく見るとひとり滑り込めるカウンターの隙間は見つかる。不思議な店だ。財布には、いつもベルクのビールの回数券がある。わたしにとってはお守りみたいなものである。

 ビールを飲む傍らには、大きめの鞄。中にはバケットにチーズとハム、それにシェリーの瓶が一本。

 7時の新宿駅にいるのは、新宿駅8時発あずさ5号に乗るため。朝から飲み、鞄に酒ということは仕事ではない。ただ「電車に乗るため」というのがその答えに近い。今回は一泊二日のそんな旅におつきあい願いたい。カンタンな肴やお好きなお酒、いや、お茶でも構わない。そんなものがそばにあるといい。

 あずさ5号は定刻通り、8時に新宿を出る。指定席は満員のようで、デッキから車輌まで人が出ている。通勤客が多く、土日のような客はあまりいない。

 一方、わたしは気楽な旅だ。目下、考えるべきは、いつシェリーの封を切るかぐらいで、それもこの通勤電車を憚ってのことではなく、「いつもの」中央線のあたりでは雰囲気が出ない。立川でもダメ。やはり、その分岐点は八王子だろうか。なにが「やはり」だ、それっぽく言いやがって。

 八王子を過ぎ、特急あずさは山間を行く。