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エッセイについて
古今亭志ん雀の「すずめのさえずり」 第1回
- 連載
- 落語

画:原田みどり
連載が始まります!
「エッセイを書きませんか?」
というお話をいただいた。すでに多くの仲間たちがこちらに書いているという。
「文学部だからいろいろ書けるでしょう」
たしかに文学部だが、主に読んでいたのは電撃文庫と富士見ファンタジア文庫、今日で言うところのラノベである。
専攻は東洋哲学といって、テキストは漢文のお経だった。教授は住職だった。
「この論文はドイツ語で書かれている。さすがに諸君にそれは酷だろうから、英語訳を用意した」
どうして日本語訳を用意してくれないのだ。仏作って魂入れずではないか。
ちゃんと仏教を学ぶために入ってきたお寺の息子の三島君に要点を解説してもらい、論文は一般向けの入門書の丸写しだった。それでも途中で半数は行方不明になってしまうようなところだったので、一応出席して出すもの(どんなに酷い内容でも)を出した者まで不可にしていては専攻が成立しないらしい(この作品はフィクションであり、実在の人物、大学とはあまり関係ありません)。
数冊の入門書をつなぎ合わせた卒業論文に、指導教授の付箋は始めの三分の一くらいまでしか貼られていなかった。読むのやめたな。
でも「D(可)」ではなく「C(良)」だった。あれで良なら、可のやつは自分のお経音読テープでも出したのか。
そんな人間に何を書けというのだろう。世間に訴えたいことも、語るべき落語論もとくにない。道楽といえば家庭菜園と筋トレくらいである。
「今月はミニトマトの収穫です。30センチのキュウリもできました」
そんな小学生のアサガオ観察日記みたいなものを誰が読みたいのだ。でもネタに詰まったら書く。
「ベンチプレスの握り方がやっとわかったような気がします」
私にとっては大きな一歩だが、人類にとっては月より遠い話題である。でもネタに詰まったら書く。