2025年5月のつれづれ(ありがとう一風亭初月、おめでとう港家小蝶次 浪曲界の未来へ向けて)

杉江松恋の月刊「浪曲つれづれ」第1回

2025年5月のつれづれ(ありがとう一風亭初月、おめでとう港家小蝶次 浪曲界の未来へ向けて)

この写真が何なのかは、記事の最後で。えっ、陰陽師の内職ですか?

杉江 松恋

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杉江 松恋

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関西浪曲界に大きな損失、一風亭初月の逝去

 今月から月イチで浪曲の最新事情に関する報告を担当することになった。どうぞよろしくお願い申し上げます。その月にあった会の話題や、注目したい会の先行情報についてあれこれ書いていく予定である。

 まずは、どうしても悲しい話題から始めなければならない。

 関東には一般社団法人日本浪曲協会、関西に公益社団法人浪曲親友協会がある。その浪曲親友協会で曲師の顔として長く活躍してきた一風亭初月が2025年3月23日に亡くなったことが報道されたのである。

 相三味線(あいじゃみせん)、つまり浪曲師と曲師が固定のコンビを組んで作品を作り上げていくことが重視されるのがこの芸能だ。現役では人間国宝・京山幸枝若、春野恵子の相三味線を務め、二人を支え続けた。幸枝若門下の京山幸太・幸乃も初月に弾いてもらって成長してきたのである。関西浪曲界における貢献度は大きく、損失は計り知れない。

 一風亭初月は1998年10月、名人・藤信初子に入門した。師匠の前名である一風亭今若から亭号を受け継いでの芸名である。会社員生活を経ての入門で、三味線は未経験者だったが、3年間の稽古を経てデビュー、しかも出弾き(客前に出て弾くこと)で舞台を務めて話題となった。浪曲では衝立(ついたて)を出して曲師の姿を隠すことが多いが、初月は一貫して姿を現わしての演奏を行った。若手のうちから舞台度胸があったのだろう。いわゆる水調子、低音を聴かせる三味線が心地よかった。あれがもう聴けないのだと思うとまさに言葉もない。しかし、今は安らかにお眠りくださることを祈るのみである。

 浪曲界にとって曲師の育成は、死活問題だ。日本浪曲協会ではここ数年、若手の入門者が相次ぎ、10年未満の者だけでも10名近くの曲師がいる。しかし、浪曲親友協会は、初月を筆頭に沢村さくら、虹友美、藤初雪の4名体制で近年は来ていた。沢村さくらは、相三味線を務める真山隼人が精力的に活動を行っているために余裕がなく、協会公演は虹友美・藤初雪が支えていかなければならなくなるはずだ。新星の出現を期待したい。

 どんなことがあっても前に進まなければならないのが大衆芸能の世界というもので、筆者は行けなかったのだが、4月5日には浅草木馬亭で京山幸枝若独演会が開催された。急遽、一風亭初月追善公演として行われ、いっぱいのお客さんが詰めかけたという。

 4月25日のNHK浪曲大会には、幸枝若も出演し、虹友美の三味線で十八番の「左甚五郎 掛川の宿」を唸った。悲しみは胸に秘めてのあくまでも楽しい舞台である。この公演では、幸枝若のインタビューも収録された。7月6日午後に放映予定なので、ぜひご視聴を。春野恵子も師匠・二代目春野百合子譲りの「高田馬場」を熱演している。