カレーライスと師匠の言葉 (後編)
鈴々舎馬風一門 入門物語
- 落語
しくじりばかりの前座期間
その後、落語協会に入門の連絡をしていただき、いよいよ私の修業が始まります。しかし、当時を振り返ると、師匠には本当によく怒られました……。
そもそも私は出来の悪い弟子でしたし、さらに師匠と私は見た目も性格も反対のようで、「丸っこい師匠と、細長い弟子」「豪快な師匠と、ビビりの弟子」「記憶力のいい師匠と、悪い弟子」「繊細な師匠と、ガサツな弟子」「せっかちな師匠と、ボーっとしてる弟子」「器用な師匠と、不器用な弟子」「太っ腹な師匠と、せこい弟子」「面倒見のいい師匠と、悪い弟子」そして何より「熱狂的な巨人ファンの師匠と阪神ファンの弟子」と数え上げれば、切りがございません(弟子入り後は、巨人はもとより全球団を応援いたしております!)。
前座の頃も山ほど、しくじっていました。例えば、前座の楽屋仕事に「着付け」があるのですが、これは出番前の師匠方に着物を着せる仕事です。ある日、楽屋で着付けをしようと、師匠が服を脱ぐのをずっと待っていました。すると、
「まだ俺の出番じゃねぇだろ! 楽屋にいても勉強にならねぇから、舞台袖に行って先輩の高座を勉強しろ! おめぇは噺家になりてぇんだろ!」
師匠の言葉に感謝し、すぐに袖へ駆け寄ります。そして、先輩方の落語が面白くて、そのまま落語の世界に入り込んでおりますと、遠くのほうから声が……。
「おーい、馬風師匠が着替えてるよ!」
「やべぇ、次は師匠の出番だった」
慌てて楽屋に戻ります。
「てめぇ、今日は何しに来たんだ!」
パンツ一丁で仁王立ちしたまま、怒り狂っておられる師匠がいました。まるで絵本に出てくる鬼みたいでした。
「わざわざパンイチじゃなくて、肌着くらい着とけばいいのに……」
怖いけど、どこか面白いお方で、師匠には申し訳ないんですが、面白かったしくじりはすべて漫談になってしまいまして、詳しく聴きたい方は、ぜひ私が出演している落語会に足をお運びくださいませ
見習い、前座の五年間は、ほぼ毎日師匠の家に行っていましたが、二ツ目からは基本的に十日に一度になり、仕事や用事がない限りは師匠と会わなくなりました。それでもたまに会ってはしくじって怒られ、その話をマクラで喋ってお客様に笑ってもらう変なルーティーンができ上がっていました。
ただ、師匠に怒られるのは、やっぱり嫌です。何とか失敗しないように頑張って無事に終わった時は本当に嬉しかったのですが、その次の落語会では、
「しまった、あの日、しくじってないから面白エピソードがない! マクラどうしよう? なんで師匠は怒らなかったんだ! なんて師匠だ!」
と、自分でも訳の分からない完全なる逆ギレをしていました(笑)。