カレーライスと師匠の言葉 (後編)
鈴々舎馬風一門 入門物語
- 落語
ウチはきついけど、まぁ頑張んな!
高座で一番緊張したのは、実は真打ちに昇進してからの披露興行でした。前座の頃は、楽屋働きや高座返し、太鼓など裏方がメインで、できない前座の私は、高座よりも裏方の仕事のほうが緊張していました。それゆえ、せっかくの初高座も裏方の仕事に一杯いっぱいで緊張する余裕もなかったのです。
各寄席での真打披露興行では、前座の頃から上がらせてもらっている馴染みのある高座が別の超巨大空間のように感じました。身体がずっしり重く、口はパッサパサで言葉が出ず、結局、最後まで慣れることなく披露興行が終わったのを覚えております。
修業は厳しかったですが、落語家になって嬉しかったことはいっぱいあります。そして何よりお客様に笑っていただけた時、特にウケなかったネタを思考錯誤して笑ってもらえるようになった時は非常に嬉しいです。
ただ、それと逆で、笑ってもらえていたネタが急にウケなくなることもあり、一番思い入れのある『長短』もそうでした。最初、ウケなくて何とか笑ってもらえるようになり、賞までいただいて非常に喜んでいたんですが、その後、あっとゆう間にウケなくなってしまいました。落語は本当に難しいです。
いつか師匠のように大爆笑を取って、古典でしっかり締めることができたら、またおかみさんのように「芸は人なり」を体現できるようになれたら、その時が落語家になって最も嬉しい瞬間になると思います。
この道は、私にはとても厳しく長いものです。
「ウチはきついけど、まぁ頑張んな!」
弟子入りの時の師匠のお言葉に今も支えられながら、日々精進しております。
(了)