ドンといけ美馬 (前編)
鈴々舎馬風一門 入門物語
- 落語
運命を感じて落研に入部
大学生になり、部活決めの際に迷わず吹奏楽部に所属することを決めていたのだが、吹奏楽部の楽器決めの大事な日を一日間違えてしまい、実質入部できないことになってしまった。
本命の吹奏楽部に入部できなくなり、自分のバカさ加減に落ち込みながらサークル選びに悩んでいると、掲示板に落語研究部のチラシが貼られていた。落語なんてもちろん見たことも聞いたこともない。『笑点』のイメージしかなかった。ただ、『るろうに剣心』効果で江戸から明治の歴史に興味があったので、着物が着られるというところにも興味を持ち、なんとなく落語研究部の部室の扉を叩いた。
迎え入れてくれた部室には、小柄な可愛らしい女性の先輩が一人と、大人しそうな男性の先輩が二人いて、四畳半の部室に春なのにコタツが置いてあり、それを囲んで楽しく談笑している。雰囲気が心地よかった。なぜか運命を感じた私は、落研に入部することをその場で即決したのだ。
その日、家に帰宅して、吹奏楽部でなく落語研究部に入部したことを話すと、姉から「斜め上をいったね」と言われたことが、なんだかいい意味で期待を裏切ることができたようで、普通な私が特別な人になれた気がして嬉しくなった。
落語漬けの日々
翌日から落語研究部に入り浸り、コタツを囲んでファミコンでマリオカートをして遊ぶ毎日。ふと思ったのが「この人たち本当に落語をするの?」。そう思っていると、新入生歓迎落語会に誘われた。講義室に高座があって、他の新入部員と共に開演を待つ。普段のゆるい雰囲気の先輩がかっちりと着物を着こなして、流暢に落語を演じている姿に衝撃を受けた。決してイケているとは言い難い大学生が着物を着て、全力で落語を演っている姿がかっこよくて一瞬にして引き込まれた。そこでようやく私も落語をやってみたいと思うようになった。
落研部員たちは、部室にある落語のCDや速記本で落語を覚えたり、YouTube動画を見て稽古をする。それとは別で定期的に稽古会があり、先輩が指導してくれたりもする。私の初めての落語は『元犬』を選んだ。落語の演目を紹介する本を読んで犬が出てくるところが可愛いと思ったからだ。
そして、初高座は大学の学園祭。初めて覚えて見よう見まねで稽古をした『元犬』をかけた。学生や一般のお客さんに沢山笑ってもらえて、なんとも言えない高揚感と達成感に満たされて幸せだった。今までの吹奏楽では味わったことのない感覚に完全に魅了された。自分が演じた落語で笑ってもらえる。私が沢山の人たちを笑わせることができるなんて信じられない。「なんて落語って最高なんだ」と思った。
その日から、もっと笑ってもらいたい、喜ばれたい、そのために沢山稽古しようと、落語漬けの日々が始まった。
