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小じかの一歩目 (後編)

鈴々舎馬風一門 入門物語

小じかの一歩目 (後編)

うちの師匠と兄弟子たち

柳家 小じか

執筆者

柳家 小じか

執筆者プロフィール

当たって砕けろ!

 そうして、どの師匠のところに入門をしようと考えた時、頭に浮かんだのは先述した大会での思い出だった。
 「小せん師匠のもとで落語家になりたい」

 そうなれば、後は行動あるのみ。師匠が出る落語会を調べ、行ける会には手当たり次第に観に行った。

 だが、ここで大きな問題にぶち当たる。入門志願をするのが想像を絶するほど怖いという問題だ。アルバイトの面接、入学試験の面接、就職活動の最終面接。これまでの人生で自分をアピールしたり、入れてくださいとお願いした経験がある人は分かると思うが、誰しも、そういう場では緊張するものだ。

 私は就職活動を一切していないため、最終面接だけは共感できないが、それらと比べても弟子入り志願は緊張した。会社と違い、弟子入り志願は、師匠が募集しているものではない。どこの馬の骨かも分からないような人間が自分のもとで「落語家になりたい」「面倒を見てください」とお願いに来るのだから、師匠からすればいい迷惑だろう。

 落語会や寄席などで師匠の出待ちをして、出てきたところに声をかける――文字にするとたやすいことなのだが、実際に行動するとなると、二の足を踏んでしまう。いつでも弟子入り志願ができるようにと、スーツで落語会に通い、何度も師匠が帰るのを見送った。

 この一歩を踏み出さなければ何も始まらない。この文章を読んで弟子入り志願者を考えている人がいるならば、言いたいことはただ1つ。

 「当たって砕けろ!」

 いやいや、砕けてはいけないだろうと思うかもしれないが、大概は砕ける結果になる。私もやっとの思いで言えた、最初の弟子入り志願は断られた。私が弟子入り志願をした時、兄弟子のひろ馬兄さんはまだ見習いという身分だった。そのこともあり、「今は弟子をとることができない」との言葉だった。

 断られてしまった時の気持ちは、今もよく覚えている。断られたショックが半分、「弟子にしてください」と言えた自分を褒めたい気分が半分。いや、七割ぐらいは自分を褒めたい気分だったかもしれない。