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布袋の大仏

林家きく麿の「くだらな観音菩薩」 第3回

飾らないカッコ良さ

 もちろん、それが悪いこととは思わないですけど、シンプルに面白いと思ったことを、そのまま格好をつけずに伝えられる能力にただ憧れてるんです。例えば、やなせたかし先生の歌の詩や、西岸良平先生の『三丁目の夕日』や、先代の入船亭扇橋師匠とか。

 なぜここで扇橋師匠が出てくるかというと、落語だけを聞いていらした方にはおそらくわからない師匠の凄さがありまして。

 色んな著名人が美味しいお店を紹介するという読み物の中で、どこそこのお寿司が美味しいとか、なんたらのフレンチは最高だなどと書いているんですけど、扇橋師匠がお薦めしていたお店が、御徒町駅の構内の階段のところにあるラーメン屋さんでした。「うわー! なんで?」ってなるじゃないですか。「そこでいいんですか? もっといいところあるんじゃないですか?」って。

 でも考えてみると、それはただ単なる私のエゴなんです。「自分が美味しいと思っているところを他人がどう思うだろう」などと考えずに言えるスタンスが凄いですよね。そこには、カッコ悪いとか恥ずかしいとかないんだもん。絶対的な自分があるってことですもん。そりゃ、私はこの方には敵わないな、ってなりました。

 この話をお弟子さんで同期の入船亭扇里師匠にお話したら、「うちの師匠、そういうのは凄かったね。あと、『ここ美味しいから』と言って連れて行ってもらったお店は大体、不味かった」と言ってました。ズコー(またはヘコー、第2回に続いて2回目)。

 はぁ、本当に凄い人っていますよね。つくづく凡人の私には、羨ましい限りです。