一合目 ~日本酒飲みの生い立ち

「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第1回

ニセ下戸、楽屋で日本酒を語る

 もとより我慢忍耐の修行の身、「日本酒は飲めずとも仕方ないぞ」と思っていたある一日。

 高座後に楽屋でノセ物の缶ビールをあけてご機嫌に酒盛りを始めたのは、橘ノ圓(たちばなのまどか)師匠。お茶係だった自分は、コップやおつまみを師匠のもとへ運んでいったのだが、その時、圓師匠がふと何を思ったのか急に、「真紅(しんく、筆者の前座名)、酒は飲むのか?」と尋ねてきたのである。

 普段、ニセ下戸をしていたのだから「飲めないんです~」と答えればいいのだが、あんまり美味しそうに酒を飲む圓師匠を見ていたからか、この時はなぜか「ビールは飲まないんですが、日本酒は飲みます」と、つい本音を語ってしまった。

 すると師匠はオッ!という顔をしたあと、「じゃあ、饅頭で酒は飲めるか?」と尋ねてきた。

 日頃より、「日本酒は塩辛いものに合わせるだけじゃない、日本酒の甘みと旨みは甘味そのものにも寄り添うのだ!」と信じて和菓子や果物とも合わせて飲んでいたので、「はい、飲めます!」と正直に答えたところ、「そうか! じゃあ真紅は本物の酒飲みだな!」と師匠は満足気に言ってくれた。

 この時の「本物の酒飲みだな!」の言葉が妙に嬉しく頭に残り、次第に「ビール党に遠慮してわざわざ飲めない振りをするのも勿体ないよなあ」と感じるようになったのである。

とりあえず日本酒! 全国漫遊の旅

 日本酒が好きなら、好きと正々堂々主張すればよいのでは? 「とりあえずビール!」が許されるなら、「とりあえず日本酒!」も認められてもよいはずだ!

 そのためには「こいつは本当に日本酒が好きなんだな」と周りのみんなに思ってもらえるような説得力が必要だと考え、日本酒の資格を取りにいき、酒蔵を巡り、歴史を学び……さらなる日本酒の深淵へとにハマっていったわけなのである。

 長々と、日本酒との出会いからハマるまでを語ってきたが、とにもかくにも、とりあえず日本酒! これが当たり前に許される日を迎えるため、さらなる見聞と知識を求め、全国日本酒漫遊の旅を致します。

 果たしてどんな発見があるか、乞うご期待!

※余談:日本酒問答のあとも顔を真っ赤にししつつ、缶ビールを飲み続けていた圓師匠、今度は何やらマジマジと私の顔を見て「いや~、こうやって見ると、真紅は実に良い女だなあ~」。これを聞いた周りの師匠方が一斉に、「圓師匠! そういうことはね、酒を飲む前に言うもんですよ!」とツッコんだという……。

(毎月20日頃、掲載予定)