長崎
港家小そめの「コソメキネマ」 第3回
- 連載
- 浪曲
幻の雪
戦争をテーマにした映画は数多くありますが、その中の一つ、久松静児監督の『南の島に雪が降る』という作品があります。名優・加東大介さんの戦地での実体験を元にした手記を原作とした映画です。加東大介さんもご本人役で出演しています。
映画の舞台はニューギニア・マノクワリ。配属された日本兵の慰安のために演劇分隊が作られることになります。その分隊に入るためのオーディションが開かれ、参加した兵隊が、浪曲を披露する場面が出てきます。
審査をする隊長たちが少しうんざりした様子で、「浪曲はあと何名だ」「20名以上おります」というやり取りも出てきます。浪曲が人気のある(そして、唸りたくなる)芸能だったんだなぁと思わせます。メインキャストの一人、伴淳三郎さんが披露したのは、なんと浪曲を使った節劇。
久松監督は「駅前」シリーズを多く手掛けた監督で、この映画にも芸達者な役者陣の楽しいシーンがたくさんあります。
オーディションには、芸を披露する人だけでなく、兵隊になる前はかつらを作っていた人、美術を学んでいた人などもやって来ます。同じ兵隊服、軍隊の階級制度ではわからない、その人の職業や生活を想像させます。フランキー堺さんが演ずる坂田伍長が演劇分隊にピアノがあることを聞いて、遠くの部隊からピアノを弾きに訪ねてくるシーンも印象的です。
やがてマノクワリに、手作りの劇場が建てられます。その舞台に紙の雪が降ります。南の島で決して降ることのない白い雪です。
■今回の映画
『南の島に雪が降る』(1961年製作、久松静児監督、102分)
▼南の島に雪が降る(1961)- 作品情報・映画レビュー(キネマ旬報WEB)
(毎月23日頃、掲載予定)
―― 第2回「チンドン屋人生」