思いがけない旅の始まり

三遊亭好青年の「スウェーデン人落語家の不思議な旅」 第1回

厳しい落語の世界へ

 落語の世界では、師匠のところに入門しないと、落語家として認められません。ですから、しっかりと落語をやるために、まずは師匠を探すことにしました。

 しかし、どの師匠に入門するかを決めるのは、簡単じゃありません。面白くてうまくて、素晴らしい方がたくさんおられます。でも師匠になる方は、たった一人だけです。複数の師匠がいると、お正月のご挨拶が大変なことになりますからね……。

 私の師匠となってくださったのは、三遊亭好楽です。人気番組の『笑点』でお馴染みですね。うちの師匠は、テレビではとぼけたキャラクターで有名ですが、落語はまた違った魅力があり、ひと味違います。師匠の落語の中の温もり、優しさに心を打たれ、「この方に付いていこう!」と思いました。

 その後、無事にうちの師匠のもとに入門しましたが、そこからが大変。厳しい修行が始まりました。スウェーデンには、似たような仕事はありません。前座・二ツ目・真打の身分制度や、古くから伝わる伝統的なしきたり、粋(いき)や野暮(やぼ)などのさっぱり分からない言葉が飛び交います。

 最初は戸惑いが大きく、「もう辞めたい」と本気で何度も思いました。それでも「やっぱり落語がやりたい!」という想いが強く、それが私を支えてくれて今の自分があります。そして、なぜか日本人でない自分の落語でも「お客様に喜んもらえる」「感動していただける」ことを証明したい気持ちが強く心にありました。

 落語家になると、師匠から名前をいただきます。普通は、師匠の名前の一字を受け継ぎます。師匠が好楽なので、たいていは「好」の字です。ところが、私の前座名は「じゅうべえ」でした。十番目の弟子だから、この名前になったんだそうです。

 二ツ目に昇進した時は、師匠から新たに「好青年」という名前をいただきました。「じゅうべえ」の次にどんな名前になるかは気にしていなかったという訳ではなかったですので、「じゅうべえ」の次に、「好青年」という名前に驚きました。

 最初はすごく不思議な感じがしましたが、人間は慣れるもので、今はすっかりこの名前に馴染んでいます。今もこの芸名で落語をやらせていただいており、お客様から「とても覚えやすい」と言ってもらえるので、やっぱり素晴らしい名前だと改めて思っています。