憧れ
座布団の片隅から 第1回
- 連載
- 落語
中島らもさん
しかし、なぜ私は昔からエッセイを書くことに憧れがあったのだろうか。その原点は、中島らもさんにある。大学時代、私は本の虫で、中島らもさんに傾倒していた。飲酒からの酩酊で着想を得るような破天荒な作風は、“大分のおぼっちゃん”として温室栽培された私にとって、輝いて見えた。
好きが高じて小説だけでなく、エッセイにも手を伸ばし、書店で買ったのが『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』という自伝的エッセイ。まずタイトルがオシャレだ。この連載のタイトル『座布団の片隅から』とは、大違いである。いっそこの連載のタイトルを『僕に座られた座布団と僕が座った座布団』にしようか。いやいや、ないない。
話を戻すと、私はその本を読んだとき、憧れの人の脳みその中を少しだけ覗けた気がした。これこそエッセイの魅力だと思う。では、少し覗いた頭の中から何を得るのか。その人の考え方や物の捉え方、センスを知り、自分もマネしてみるのだ。すると、まるで自分にも同じような才能があるかのような錯覚に陥る。その瞬間、私は中島らもさんになれるのだ。それは幻であっても。そのことに感動して以来、いつか自分もエッセイを書きたいと密かに憧れを抱くようになった。
だが、私は中島らもさんではない。何者でもない自分が偉そうに駄文を垂れ流すのは気が引ける。しかし、落語家になれば、表現で生きていくことが仕事として世間に許される。そのチャンスを心待ちにしていたのだ。

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