泣きっ面にう○○

柳家さん花の「まだ名人になりたい」 第3回

生き延びてしまったゴッホ

 その日からゴッホについての本を買い漁り、どこかでゴッホ展があると知ると出不精の私がいそいそと出かけた。ゴッホのことに詳しくなり、ゴッホが残した絵の中から自分の琴線に触れるものの載っている画集を手近に置き、何度となく見る。

 でも、何か違う。ゴッホの生い立ちを知ったり、ゴッホの習作からひまわりまでの導線を見出したり、それは趣味としては楽しいかもしれないが、ゴッホ当人の私にとっては虚しいことだった。

 芸術史の中のゴッホの立ち位置や、ひまわりの絵に使われている技術で、あの時の感覚を語れるものではない。それどころか、ひまわりでさえ見る度に何も感じなくなってしまった。

 ゴッホは、三十七歳で自死している。当然、私もそうするものだと思っていた。だが、その歳が近づいてきて悟った。私は自死するほど心が病んでいない。生き残ってしまった。

 ノストラダムスを信じていたのに、2000年を迎えてしまったような心持ち。もう、うんこのことを考えるよりしょうがないじゃないか。