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牛ほめ、たがや、茶の湯

林家はな平の「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第3回

七席目 『牛ほめ』 ☆

【あらすじ】

 馬鹿な与太郎が、佐兵衛おじさんの新築した家の褒め方を父親に教わる。

 その文句は「家は総体檜木造り、天井は薩摩の鶉木目(うずらもくめ)、左右の壁は砂摺り(すなずり)で、畳は備後の五分縁(ごぶべり)お庭は総体御影(みかげ)造りでございましょう、床柱は南天で結構でございます」というもの。

 ついでに台所の大黒柱に節穴があるから、「これには秋葉様のお札を貼れば穴が隠れて火の用心になります」と言えば小遣いをもらえる。それが駄目なら牛を褒めれば良いという。「天角地眼一黒直頭耳小歯違(てんかくちがんいちこくろくとうじしょうはちごう)」というなんとも呪文みたいな褒め言葉。

 さあ、名誉挽回にと与太郎が佐兵衛おじさんの家に試しに行く。ところが、そこは与太郎。「天井はさつまいもにうずら豆、佐兵衛のかかあは引きずりだ、畳は貧乏のぼろぼろで…」とまるで上手くできない。

 それでもなんとか台所の節穴を見つけてうまく切り抜けると、最後は牛を褒めようとするが……。

【オチ】

 いくら褒めても反応のない牛。そのお尻の穴を見つけた与太郎が、

与太郎「おじさん、この穴に秋葉様のお札をお貼りなさい」
佐兵衛「そんなことしたら罰が当たるよ」
与太郎「いやあ、穴が隠れて屁の用心になります」

【解説】

 本来は、違ったオチだったと聞いたことがある。確かに、与太郎が言うセリフにしてはキザな感じがする。自分から笑いを取りに行っているようにも思える。ともあれ、洒落で終わる簡単なオチだ。

 この噺は、とにかく子供にウケる。子供にウケる鉄板ネタランキングをやったら、多分どの噺家も上位に入れるに違いない。

 じゃあ、大人にはウケないのかというと、それがちゃんとウケる。ご常連の方は、そうでもないと思うが、地方で落語を聞き慣れないお客様の前だと、大人でも子供でもウケる。

 前半に家の褒め方をレクチャーしてもらう場面があって、その文句はほとんどピンと来ないが、どれも語感が良くて妙に耳に残る。それを与太郎が“ラッパーが韻を踏む”ように間違えた文句を並べ立てて、笑いは最高潮に達する。

 台所の大黒柱に行くと、噺はラストへ一気に進むが、そもそもこの大黒柱を子供たちは知らないことが多い。今の洋建築には、柱すらないのだ。こういう昔の風情に浸れるのも落語の良さかもしれない。