牛ほめ、 たがや、 茶の湯
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第三回
- 落語
林家 はな平
2025/07/06
九席目 茶の湯 (ちゃのゆ) ★★★
[ワンポイント]
ご隠居と定吉が始めた独自の「茶の湯」は、本人たちだけが楽しんでいる危険な趣味である。飲まされる側はたまったものではないが、江戸の町ではそれを正面から言えない。この我慢が、噺全体の笑いを支えている。
◆【あらすじ】
蔵前の大店(おおだな)の主人。隠居生活をしようと、小僧の定吉を連れて根岸に引っ越してきて静かに暮らしている。「退屈だから何かやったらどうだ」と定吉に言われ、幸い茶室と茶道具も揃っていたために、やり方を知らない茶の湯をやることになる。
「茶碗の中には青い粉が入って、泡を立たせるものがいる」と知ったかぶりをしていると、定吉が乾物屋から、青きな粉とムクの皮を買ってくる。青きな粉をお湯に入れ、ムクの皮で泡を演出した、この変なお茶を二人は飲む。もちろん美味しいわけがなく、三日でお腹を壊す。
それから、隠居の持つ長屋の三人を呼んで、茶の湯の会を開くことにし、定吉に手紙を届けさせる。豆腐屋さん、鳶(とび)の頭、手習いの先生の三人は、自分たちも茶の湯を知らないが、仕方なく茶の会にやってくる。不味(まず)いと思った三人だったが、なんとか切り抜ける。
一方、口直しに食べた羊羹(ようかん)が美味しかったので、これが近所で評判になり、茶を飲まずに羊羹ばかり食べにくる者も出て来る。そのため、菓子代を節約しようと考えた隠居は、さつまいもをたくさん蒸して、すり鉢で黒砂糖と蜜を混ぜて合わせ、それをお猪口(ちょこ)に入れて抜こうとしたが、ベトついて抜けない。
そこで綿に行灯(あんどん)用の灯し油を染み込ませて、お猪口に塗ってうまく抜けるようになった。これを「利休饅頭(りきゅうまんじゅう)」と名付けて出したが、これも不味くて近所の人が来なくなる。
ある日のこと、蔵前にいた頃の友だちがやって来て、茶の湯をやってみたいと言う。喜んだ隠居は、お茶を振る舞うが…
◆【オチ】
不味いお茶を飲んだので、口直しにと食べた自家製造の「利休饅頭」。もちろん食べられたもんじゃない。
我慢できなくなって、その饅頭を持って廊下へ飛び出したお客が、庭を見ると建仁寺垣(けんにんじがき)があって、その向こうに畑が広がっている。そこへぽーんと投げ捨てるが、それが畑仕事をしていたお百姓さんの頬にぶつかって、
お百姓 「うん? ああ、また茶の湯か」
◆【解説】
筆者が一番好きなオチだ。「また茶の湯か」という一言に広がりを感じる、秀逸なオチだと思う。このセリフが発せられた瞬間に、長屋の人が茶の湯をやらされて悶絶している風景が思い浮かぶ。その余韻を残しながら噺が終わる。
この噺では、不味いお茶を飲む場面が何度も出てくるが、飲む人がみんな違う。その差をつけるのが楽しくて難しい。
青きな粉は、緑色のきな粉で味はきな粉だが、これに合わせたムクの皮が不味い。ムクロジの実の皮で、昔は石鹸(せっけん)の代わりに使われたそうだから、不味いはずだ。利休饅頭に使う灯し油は、魚からとった油で作ったもので、生臭い饅頭にはさぞ驚いたことであろう。
そして、もう一つ面白い場面がある。三軒の長屋の人が、茶の湯の会に行きたくなくて引っ越しをしようとしている場面である。
前半と後半を繋ぐ大事な場面だが、ここを端折(はしょ)る演者もいる。だけど私は、出来るだけ入れるようにしている。一気に登場人物が増えるが、とにかく面白いのだ。博学なはずの手習いの先生まで、引っ越そうとする。その場面を描いてこそ、後半のオチが生きてくると思っている。
好きだからと、あまりにやり過ぎてお客様に「また『茶の湯』か」と言われないようにしたい。

▼林家はな平 公式Webサイト
▼林家はな平 X
(毎月6日頃、配信予定)
●演目一覧(2026年8月時点)
あ行 明烏 あたま山 一分茶番 井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿 親子酒
か行 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚 権兵衛狸
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 崇徳院 粗忽長屋 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 天狗裁き 道灌 時そば
な行 二番煎じ にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 棒鱈 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆 百川
や行 淀五郎
ら行
わ行
―― 林家はな平『オチ研究会 なぜこのサゲはウケるのか?』連載一覧
いま読まれています!
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第15回
揺れ動いた、30代最後・熊本での夏
~祭り、地震、再会、人の優しさ。この夏に見つめた、自分の笑いの原点とは?
服部 拓也
2026/08/28
「かけはしのしゅんのはなし」 第15回
海水浴は、だいたい思い通りにいかない
~楽しいはずの家族旅行に、次々と試練が……
春風亭 かけ橋
2026/08/29
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「講談最前線」 第26回
2026年8月の最前線 【後編】 (聴講記:津の守講談会、田辺凌鶴の会 / 講談『太閤記』小考⑤)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
シリーズ「思い出の味」 第21回
レンズ豆のスープ
~若き日、スペインでの空腹、フラメンコギター、そして人の優しさ
天中軒 景友
2026/04/17
「エッセイ的な何か」 第15回
あの夏の夜、前座たちは海を目指した
~師匠には内緒の、前座五人の小さな冒険。特別ではない一夜が今も心に残る、夏の青春譚
三笑亭 夢丸
2026/08/21
「コソメキネマ」 第十六回
二階から
~「馬の脚」専門の旅役者の矜持と哀愁を描く映画『旅役者』をご紹介
港家 小そめ
2026/08/23
「マクラになるかも知れない話」 第十三回
霊んメイカー2
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいに笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/08/25
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第15回
揺れ動いた、30代最後・熊本での夏
~祭り、地震、再会、人の優しさ。この夏に見つめた、自分の笑いの原点とは?
服部 拓也
2026/08/28
「マクラになるかも知れない話」 第十三回
霊んメイカー2
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいに笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/08/25
「コソメキネマ」 第十六回
二階から
~「馬の脚」専門の旅役者の矜持と哀愁を描く映画『旅役者』をご紹介
港家 小そめ
2026/08/23
「講談最前線」 第26回
2026年8月の最前線 【後編】 (聴講記:津の守講談会、田辺凌鶴の会 / 講談『太閤記』小考⑤)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/25
「すずめのさえずり」 第十三回
夏
~小学生のみんな、夏休みの宿題は自分でやろうな!!
古今亭 志ん雀
2026/08/26
「かけはしのしゅんのはなし」 第15回
海水浴は、だいたい思い通りにいかない
~楽しいはずの家族旅行に、次々と試練が……
春風亭 かけ橋
2026/08/29
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「エッセイ的な何か」 第15回
あの夏の夜、前座たちは海を目指した
~師匠には内緒の、前座五人の小さな冒険。特別ではない一夜が今も心に残る、夏の青春譚
三笑亭 夢丸
2026/08/21
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「講談最前線」 第25回
2026年8月の最前線 【前編】 (神田鯉栄が帰って来た!)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/08/24
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第16回
まだ満足にビールが飲めていない夏
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/08/03
「令和らくご改造計画」
第十三話 「誰のおかげで」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/08/13
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第44回
情熱に出会い、魂を語る 神田紅(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/08/09
「テーマをもらえば考えます」 第12回
スイカの夏
~天どん師匠のスイカへのこだわりから始まる、笑い満載の夏エッセイ
三遊亭 天どん
2026/07/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第46回
情熱に出会い、魂を語る 神田紅(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/08/11
「座布団の片隅から」 第16回
別荘
~優雅な大人の夏休み……のはずだった。涼やかな高原の別荘での珍事件を綴る爆笑避暑日記!!
三遊亭 好二郎
2026/08/07
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第45回
情熱に出会い、魂を語る 神田紅(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/08/10
「お恐れながら申し上げます」 第12回
落語好きの歯医者さんの話
~歯科医院の地下室に灯る落語の明かり
入船亭 扇太
2026/08/12
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
編集部のオススメ
「かけはしのしゅんのはなし」 第14回
師匠、もうヨーグルト食べたくないって言ってたよ
~お中元は品物を渡す日ではなく、感謝を届ける日!!
春風亭 かけ橋
2026/07/24
シリーズ「思い出の味」 第25回
芸とともに受け継がれる一門伝統の味
~人を思い、芸を磨き、心をつなぐ伝統の味をほのぼのと綴った、食のエッセイ
露の 五九洛
2026/07/19
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
「令和らくご改造計画」
第十二話 「荒れるチラシ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/07/13
月刊「シン・道楽亭コラム」 第15回
彦八まつり、芸協らくごまつり、謝楽祭 ~三大祭を全部巡って見えた、それぞれの魅力
~同じ落語のお祭りなのに、三者三様の魅力が面白い。現地で感じた熱気と空気感をお届けします!
シン・道楽亭
2026/07/10
「二藍の文箱」 第14回
三遊亭小歌という落語家がいた
~忘れないでほしい、日の当たらない道を好む藝人もいることを
三遊亭 司
2026/07/02
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25