不動坊、抜け雀、七段目
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第9回
- 落語
林家 はな平
2026/01/06
七段目(画:おかめ家ゆうこ)
奥深い「オチ」の世界
落語には、「オチ(落ち)」があり、そこにはいろいろな仕掛けや工夫が込められています。本連載『オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?』では、演じる側の視点から、筆者なりにオチのタイプを★〜★★★で分類し、あらすじ → オチ → 解説の順に紹介していきます(★の基準については、第1回をご覧ください)。
第9回では、『不動坊』『抜け雀』『七段目』のオチを紐解いていきます。
二十五席目 『不動坊』(ふどうぼう) ★
[ワンポイント]
舞台は、おなじみの長屋。思わぬ縁談に浮かれる男と、それを妬む独身仲間たち。恋と金と意地が絡み合い、死んだはずの講釈師の幽霊まで登場するが、登場人物は全員どこか間が抜けていて……。
◆【あらすじ】
長屋に住む、吉公(きちこう)に縁談が舞い込む。相手は、先日急死した講釈師・不動坊火焔(ふどうぼうかえん)の妻で、今は未亡人となったお滝。かねてよりお滝に惚れていた吉公は、不動坊が残した借金を肩代わりするのを条件に、祝言(しゅうげん)を挙げることになった。
浮かれて湯屋に行く吉公。湯船の中で、新婚生活を妄想しながら、長屋に住む同じ独身三人の悪口を言ってしまう。
これを知った三人は腹を立て、近所に住む若手噺家に頼んで、不動坊の幽霊に仕立てて、新婚真っ最中の吉公を脅かしに行く算段をする。
夜になって吉公の家に集まった四人は、内輪もめしながら家の屋根に上がる。噺家幽霊が、いよいよ縄に吊るされて吉公を脅しに掛かるが、「四十九日も過ぎぬのに、嫁入りするとは、うらやましい」とちぐはぐで脅し文句も効かない。
金を無心すると、吉公は回向料(えこうりょう)だと言って10円くれるのだが……
◆【オチ】
10円やっても、なかなかいなくならない噺家幽霊に、
吉公 「この野郎、金をやったのに、まだ宙に迷ってんのか?」
噺家幽霊 「いえ、この通り、宙にぶら下がっております」
◆【解説】
状況説明をしているだけのオチなので、★とした。
明治期の上方の二代目林家菊丸作とされている。主人公たちが、腹いせに悪巧みをする構成は、上方のネタに多いような気がする。噺家が作っただけあって、講釈師や噺家を登場させているのも特徴だ。上方版は、オチが違う。
幽霊(実際は人間)が登場するので、なんとなく夏っぽい香りがするが季節に関係なくできる。
この噺は、映画のようだ。場面が明確に3つに分かれる。この3部構成を飽きさせずに聴かせるのが肝だ。
①大家さんと吉公のやり取りから主人公が湯屋で浮かれる場面、②長屋の連中が吉公の話をして悪巧みを相談する場面、そして③幽霊の支度と実践の場面。
①の縁談は『たらちね』『持参金』の出だしに似ているし、湯屋で浮かれる場面は『湯屋番』『野晒し』などの一人で浮かれる噺をやっていると役に立つ。②は『長屋の花見』『黄金の大黒』など、長屋の若い者がわいわい喋る噺をやっているとやりやすい。噺は別の噺で応用が効くのだ。こういうスキルを駆使しながら、最後の幽霊の大団円に向かっていく。
以前、“絶対ウケる台詞”を「キラー台詞」として紹介したが、この噺にもある。「四十九日も過ぎぬのに、嫁入りするとは、うらめしい」の「うらめしい」を「うらやましい」と間違うところで、ここは必ずウケる。
ただ、このクスグリはあまりにも見事に韻を踏んでいるので、最初はなかったんじゃないかと思う。もしかしたら、間違えて「うらやましい」と言ってしまって、それを採用したのかもしれないが、その真意はわからない。オチ間際にこういう台詞があると、盛り上がって終わるから良い。
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