不動坊、 抜け雀、 七段目
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第九回
- 落語
林家 はな平
2026/01/06
二十六席目 抜け雀 (ぬけすずめ) ★★
[ワンポイント]
舞台は東海道・小田原の宿場町。小さな旅籠(はたご)に泊まった一人の絵師が、宿代代わりに描いた雀の絵が命を持つ。奇跡のような評判の裏で、実は長年こじれた親子関係が静かに動き出す。落語らしい温かさがある幻想譚だ。
◆【あらすじ】
東海道の小田原宿場にある、夫婦二人で営む小さな旅籠に、ボロボロの黒羽二重(くろはぶたえ)を着た大柄な男が泊まる。大酒を飲みながら七日も泊まる男、宿代の催促に行った主人に「一文無し」だと平然と開き直る。男は狩野派の絵師で、宿代替わりに衝立(ついたて)に雀の絵を描いて「売ってはならぬ」と言い残し去っていく。
翌朝、主人が部屋の雨戸を開けると、衝立の雀の絵は消えて、何も描かれていないことに気づく。ところが、そう思った途端に宿の前に飛んでいた雀が戻ってきて、絵の中にピタッと納まる。絵に描いた雀は生きていたのである。これが評判となり、宿屋は大繁盛。大久保加賀守(おおくぼかがのかみ)も千両の値をつけてほしがるが、絵師の言いつけ通りに断る。
そのうちに、六十歳過ぎの品の良いお武家風情の老人が訪ねて来て、絵を見て難癖(なんくせ)をつける。「この絵には止まり木がないから、飛んでいる雀はいずれ疲れ果てて死ぬ」と衝立に大きな鳥籠(とりかご)と止まり木を描くと、雀がそこで休んで納まる。
しばらくして、あの見すぼらしかった絵師が立派な仙台平(せんだいひら)の袴姿で戻ってくる。衝立に千両の値がついたことや、その後にお武家風情の老人が鳥籠を描いた話をすると、慌てて衝立の絵を見に行った絵師が、衝立に突っ伏して語ったのは、「お武家風の男は父親で、絵に熱心でない自分は勘当されたが、やっと自分の功績が認められて勘当が解けた」ことだった。
それを聞いて、喜ぶ主人だったが……
◆【オチ】
主人 「この雀を描いた、あなたは親孝行だ」
絵師 「いや、わしは親不孝だ。親を駕籠舁き(かごかき)にした」
◆【解説】
説明が要るので、★★(二ツ星)とした。
駕籠は、時代劇を観ていると出てくる。宿場で活動する駕籠舁きは「宿場人足」と言って、出所の知れた浮浪人(ふろうにん)がやることが多かったが、中には出所の知れないモグリの宿場人足がいる。
その中には、「たかり」「ぼったくり」「窃盗」をする者もいて、こういう駕籠舁きを俗に「雲助(くもすけ)」と言った。
そういう経緯もあって、駕籠舁き自体を軽蔑する向きもあった。今でも、悪質なぼったくりタクシーに対して「雲助」と使われることがある。
枕で上記のような説明をする場合が多いが、どう説明したところでオチは洒落(しゃれ)である。なので、説明を入れず、オチ自体を変えている人もいる。それは演者の考え次第だ。
ただ、このオチには、妙な納得感がある。枕でオチの説明をしてから約30分の本編を聴いて、最後にこのオチが出てくるが、そこでのお客様のほっこりした雰囲気がとても好きだ。そのほっこりが見たくて喋っている噺だ。
さて、この駕籠舁きの「舁き」という表現。「担ぐ(かつぐ)」という意味だが、担ぐだとオチとは韻を踏まないし、「駕籠担ぎ」とも言わない。ちなみに、この「舁く」という表現は地方で使われているようで、愛媛県では神輿を舁く。そして、私の故郷・福岡で有名な山笠(やまがさ)も舁くという表現をするようだ。
いま読まれています!
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
シリーズ「思い出の味」 第10回
松鶴、鶴光、羽光、羽太郎の四世代の飲食
~気をつかう師匠との食事
笑福亭 羽光
2025/08/04
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
シリーズ「思い出の味」 第24回
母のカレーと鯨汁、時々“かきのもと”
~食べ物の記憶には、不思議と人の面影が宿る
春風亭 鯉づむ
2026/05/27
シリーズ「思い出の味」 第1回
21900のいただきます
~師匠との食卓
三遊亭 司
2025/05/13
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「すずめのさえずり」 第十一回
宇宙の前座
~落語家が綴る、スターウォーズにおける師弟制度の妙なリアリティ
古今亭 志ん雀
2026/05/26
シリーズ「思い出の味」 第12回
真夏の甘美
~秋田のドリアンは、恋の味!
一龍斎 貞奈
2025/08/25
シリーズ「思い出の味」 第9回
暑いので!
~3度目のマイトコロテンブーム到来?
三遊亭 天どん
2025/07/30
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
シリーズ「思い出の味」 第10回
松鶴、鶴光、羽光、羽太郎の四世代の飲食
~気をつかう師匠との食事
笑福亭 羽光
2025/08/04
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「コソメキネマ」 第十三回
弟子になる
~フランキー堺演じる落語家が活躍する喜劇映画『羽織の大将』をご紹介!
港家 小そめ
2026/05/23
「エッセイ的な何か」 第12回
5月11日は、ご当地スーパーの日 →土地の味を追い求める男の旅情
~ご当地スーパーを巡る旅は予期せぬことの連続である
三笑亭 夢丸
2026/05/24
「マクラになるかも知れない話」 第十回
G.W.にご用心
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいなリズムで笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/05/25
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第23回
日常を鮮やかに描く言葉の力 神田茜(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/12/31
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「かけはしのしゅんのはなし」 第12回
5月5日は、自転車の日
~あの時、見えた新しい世界と、今知る父の気持ち
春風亭 かけ橋
2026/05/22
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
シリーズ「思い出の味」 第6回
茶色いうどん
~自分の未来を見つめる8歳の少年
三遊亭 ごはんつぶ
2025/06/25
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「くだらな観音菩薩」 第13回
願成就院の毘沙門天
~運慶が作った仏像に心が震えた、きく麿師匠。その一方で…
林家 きく麿
2026/05/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート②
服部 拓也
2026/04/23
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
シリーズ「思い出の味」 第22回
亡き父の味と、鰻に導かれる名人の味
~人生と落語と鰻の不思議なご縁
三遊亭 あら馬
2026/04/20
「くだらな観音菩薩」 第12回
日光菩薩と月光菩薩
~怒りと笑いを行き来しながら、菩薩様のような優しさに辿り着くコラム
林家 きく麿
2026/04/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「令和らくご改造計画」
第九話 「地獄のモーニングコール」
~落語家は寝すぎ? 働かなすぎ? 前座が仕掛ける“狂気の作戦”とは!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/04/12
「講談最前線」 第16回
2026年4月の最前線 【前編】 (講談協会が一般社団法人として始動へ)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/04/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第12回
一粒の麦 ~世界に広がれ、落語の輪 in 名古屋!
~名古屋の演芸文化を支える多彩な人たちの静かな情熱とリアルな声を追ったコラム
シン・道楽亭
2026/04/10
「座布団の片隅から」 第12回
地獄
~春風亭㐂いち兄さん、柳家小はだ兄さん、三遊亭歌彦さんと僕でスキーに行ってきたのだが…
三遊亭 好二郎
2026/04/07
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25