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〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)

「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第14回

〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)
杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

1年間、全73興行を見届けた熱情

 いつも寄席にいる人がいる。

 他の場所でも会うが、寄席に行くとだいたいいる。そういう人は定位置が決まっていて、あそこらへんにいるだろうな、と思って見ると、いる。たまにその席が取れなくて他のところに座っていることがあるが、そういうときはなんだか所在なげに見える。

 そうした寄席に住んでいるとしか思えない人の一人が長井好弘(ながいよしひろ)だ。読売新聞文化部記者として長く活動し、退職してからはフリーランスとしてやはり演芸界の取材を続けている。読売新聞社を辞める前に二代目京山幸枝若の一代記を連載したが、あれはよかったのでぜひ書籍化してもらいたい。

 長井の最初の著作は、2000年の『新宿末広亭春夏秋冬「定点観測」』(アスペクト)だった。1996年5月から1年間、新宿末広亭に通ってすべての興行を聴くというもので、当時まだ長井は新聞記者で宮仕えをしていたから、結構大変だったはずである。寄席通いが原因だったかはわからないが、長井はとうとう心筋梗塞まで起こしてしまう。ずっと後だが版元のアスペクトは倒産してしまうし、いろいろなことがあった一冊になった。

 その定点観測に、令和になった2024年10月から2025年9月まで再び挑戦した記録が『新宿末広亭 令和の定点観測』(朝日新聞出版)だ。

 1月には上・中・下と10日ずつ興行があり、それぞれ昼の部と夜の部がある。これで72興行だが、末広亭は1月の上席にあたる初席は通例と違って3部制だから、1つ増えて73になる。副題にも「全七十三興行通い詰め」と入っている。

 寄席は演芸の基本であり、そこでしか見えない、そこからしか見えないものがある。昨今の演芸界を騒がせている、携帯電話が鳴る問題にも、寄席の現場を観察した者の声として言及がある。そうした基本の事柄を考えるきっかけにもなる一冊だ。

 演芸好きを自認する人なら手に取って損はしない。