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落語好きの歯医者さんの話

「お恐れながら申し上げます」 第12回

落語好きの歯医者さんの話

歯科医院の地下室に灯る、落語の明かり

入船亭 扇太

執筆者

入船亭 扇太

執筆者プロフィール

落語家を惑わす地下室

 おはようございます。入船亭扇太です。

 ここ数年は夏が来るたびに「危険な暑さです」と注意されるようになりました。そんな中でも、寄席や落語会にお越しいただけますこと、ありがたいと思っております。

 今月は、数年にわたりお世話になっている歯医者さんについて書きたいと思います。お目汚しかもしれませんが、ご一読いただけますと幸いです。

 この歯医者さんには、私が通院しているわけではありません。先生の趣味が落語で、ご自身の会に二ツ目をゲストとして呼んでくださっています。趣味の会なので、お越しになる方も先生のご友人や患者さんがほとんどです。

 この先生、ビルの1階に歯科医院を設けており、地下には落語をするためのスタジオがあります。防音は完璧で、音の響きがいい部屋の隅にはドラムのセットが置いてあります。仲間とバンドを組んでいるようです。

 高座がとても立派です。高さも十分ですし、マイクとスピーカーも個人では揃える必要がないくらい、ちゃんとしたものがあります。高座の上には、金屏風が置いてあります。3年ほど前に新調したそうです。もちろん、タダで新しくなるわけはなく、大変にお金がかかった高座となっています。楽屋もあります。楽屋の横にはお風呂があります。もちろん入ったことはありません。

 楽屋には落語のCDやDVD、書籍などが所狭しと積んであります。1つくらいなら頂いて帰ってもいいんじゃないか、という悪い考えが何度も頭をよぎりました。

 着物や羽織がたくさん掛けてあります。ネット通販で買えるようなペラペラの着物ではなく、しっかりした、家では洗えない着物が無造作に掛けてあります。紋付きもあります。「買っちゃうんだよね」とおっしゃっていました。1枚くらいなら持って帰ってもバレないんじゃないか、という邪な考えが頭に浮かんでは消えます。

 帯も何本もあります。高そうなお洒落な帯から、使いやすいような大人しい色合いの帯など、種類も様々です。ちょうど夏物の軽い帯がほしいと思っております。1本くらいなら盗っても気が付かないんじゃないかという邪念が頭から離れなくなります。誘惑を振り払うのが大変です。