ああ…麗しの吉本興業……
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
- 落語
桂 三四郎
2026/05/12
闇営業の調査で炙り出されたのは、吉本愛だった!?(画:大久保ナオ登)
「吉本しか行くとこないで」の呪文
2026年4月1日をもって、所属していた「吉本興業」を退社した。
修業が終わってから2年遅れで、吉本興業に正式所属ということになって約17年間、お世話になった所属事務所をついに離れることになったのだ。
僕が入った頃の吉本興業は、まだ昭和の名残が残る雰囲気で
NGK(なんばグランド花月)には看板の芸人さんだけでなく、ジャズ漫画の木川かえる師匠、マジックのジョニー広瀬さん、三味線漫才の二葉由紀子・羽田たか志師匠、声帯模写のサウンドコピー師匠、そしてあの桂文珍師匠をして
「あの後には出られへんな」
と言わしめたほどの爆笑芸、Mr.ボールド師匠など
昭和の時代から活躍している様々な芸人が毎日出演していた。
NGKのロビーには、師匠方がテレビを見ながらくつろいでいて、少し離れたところで進行さんと呼ばれる舞台監督見習いや、弟子っこ連中が見守っている。
まだNGKが演芸場として活躍しているのを見ていた最後の世代が、僕らの世代だろう。
テレビ、舞台では見せない裏の顔で、何をやっているかわからない
あのなんとも言えない、堅気じゃない空気をまとった芸人が集まっている雰囲気に憧れていたし
弟子の身分だったけど、この場にいられることがすごく嬉しかった。
正直、あの時のNGKより、今のNGKの方が笑いは大きいだろうし、集客も上だろうけど
あの独特の雰囲気は、今の劇場とはちょっと違う。

僕たち関西の人間は、小さい頃から「吉本興業」に対する一種の洗脳を受けていると言っても過言ではない。
朝、テレビをつけた時から夜中まで、ずっと吉本の芸人が出ている。
土曜日の昼間は、家に帰って「吉本新喜劇」を見ながらご飯を食べて、遊びに行き
日曜の昼間は「新婚さんいらっしゃい」を親が見ている。
友だちでも、恋人でも何より大事なのは
「あいつおもろいよな」
と言われることで、いくらカッコよくても話が面白くなかったら
「カッコええけど、おもんないねん」
と一蹴されてしまう「お笑い至上主義」の不思議な土壌で
アホなことばっかりしている子供は、もれなく周りの大人から
「そんなアホなことばっかり言うてたら、吉本しか行くとこないで!!!」
と言われてきた。
これを言われた子供は、真面目になるのかと思いきや
「俺もなかなかやるんやな」
と反って自信を深めてしまうのだ。
しかし、逆に
「そんなことばっかり言うてたら、松竹(芸能)入れるよ!!」
と言うと、少しおとなしくなるという。
「お笑い至上主義」ならぬ「吉本至上主義」
この風習が、僕が子供時代から30年以上経ってもまだ関西に残り続けている。
「吉本しか行くとこないよ!!」
と言われて30年以上、本当に吉本しか行くところがなかったのが吉本芸人だ。
吉本に憧れ、吉本に所属し、吉本の仕事で生計を立てていた僕が
このたび、吉本興業を離れることになった。
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