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〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)

「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第14回

いつもの高座が、最後の高座になる日

 定点観測でわかるのは、いつも同じに見えるが少しずつぶれているというバリエーションだけではない。ずっとそこにあったものが急に見えなくなってしまう驚きや哀しみももたらすことになる。

 ベテラン漫才師、東京太・ゆめ子の名前は令和六年十二月中席・昼の部に初めて出てくる。めくりは「京太ゆめ子」なのに京太が一人で出てきたのだ。相方で妻でもあるゆめ子が、自転車で事故に遭って怪我をし、休演したためだ。

 昔の芸人に関する話題を振り撒いた漫談を聴き、長井は「夫婦漫才の前はピンの高座もやっていたので、漫談はお手のものなのだろうが、その技術に芸の年輪が加わり、懐かしくて暖かな味わい、京太ならではの芸が花開いている」と書き、たまにはいいものだと感じ入る。

 だが、それ以降、ゆめ子の姿を長井が末広亭で見ることはなかった。東京太はずっと漫談で高座に上がり続ける。令和七年六月中席・夜の部において、長井はゆめ子の訃報に接し、「あまりに突然すぎて、言葉がない」と書く。

 それからひと月も経たない七月上席・昼の部、やはり「京太ゆめ子」のままのめくりで京太は一人で現れ、「高座はいいんだけど、家に帰ると一人なんだよ。慣れねェなあ。いるとうるせえけど、いなくなると寂しい」と呟く。事情を知らないお客にはなんのことかわからないだろうが、知っている長井は「痛々しくて下を向いてしまう」。

 京太は本の終わり近く、九月下席・昼の部にもう一度顔を出す。漫談の舞台で、客席からのリクエストに応えて次々にかつての流行歌を歌い、ご機嫌で腕時計を見て「ちょうどいい時間だな、今度また仕入れてくるから」。「京太に笑顔が戻ってきた」と長井は書くが、実はその後、2026年2月2日に82歳で京太は亡くなってしまうのである。この高座が長井にとっての東京太との別れになった。

 寄席に長く通っていると、そうした別れを体験することになる。私も、川柳川柳や十代目桂文治など、いつまでもそこにいそうだった人々が去っていってしまったときの喪失感が今でも胸の裡にある。そういう存在が誰にとってもあるはずだろうし、それが寄席の記憶を作り上げてもいるのだ。