NEW

寿限無、淀五郎、寝床

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第10回

三十席目 『寝床』(ねどこ) ★★★

[ワンポイント] 落語の初心者にも構造がわかりやすい噺である。好きなことを押し付ける人と、断れない人たち。誰が悪いわけでもないのに、全員が少しずつ不幸になる。その状況を笑いに変えるのが落語の力で、この噺はその好例と言える。

【あらすじ】

 ある大家の旦那、義太夫(ぎだゆう:三味線に合わせて、物語の人物のセリフや仕草などを語る演芸)が大好きで仕方がないが、あまりに下手で周りは困っている。義太夫の会を開いて、長屋の店子(たなこ:家を借りている人)を呼ぶが、誰も理由をつけて来ない。

 仕方がないので、店の者たちに聞かせようとするが、番頭以下みんなが仮病を使って聴こうとしない。ここで自分の義太夫語りが嫌がられていることに気がついた旦那は機嫌を悪くし、店子は全員出て行ってもらい、店の者もみんな暇を出すと言い出す。

 困った店子たちと店の者たちが話し合い、機嫌を直すために義太夫を我慢して聴くことを決める。番頭から「実はみんな義太夫を聴きたがっている」とおだてられた旦那は機嫌を直して義太夫の会を開くことにする。

 酒に酔えば『下手な義太夫も中和される』と考え、みんなでたくさん酒を飲んで酔っ払ったところに、旦那の義太夫が始まる。やけになって「待ってました」「音羽屋!」「うまいぞ、羊羹(ようかん)!」といい加減な掛け声をかけて耐えていたが……

【オチ】

 夢中で義太夫を語る旦那だったが、前が静かなので御簾(みす:演者の前に垂らされた、目の細かいすだれ)を上げて見てみると、客はみんな寝ている。番頭を起こして叱りつけていると、丁稚(でっち:住み込みで働く少年)の定吉(さだきち)だけは、泣きながら起きていることに気がつく。

旦那 「お前は見どころがある子だと思ってた。私の義太夫を聴いて泣いているんだな。どこが悲しかった?」
定吉 「あそこでございます」
旦那 「あそこ? あそこは私が義太夫を語っていた床じゃないか」

定吉 「あそこが私の寝床でございます」

【解説】

 
 とても有名で落語らしいオチである。素人の頃、この落語とオチにとても感心したのを覚えている。特に初めて聴いた時には、そのインパクトに驚いた。考えてみれば、演目の名前にオチが込められているわけだが……。

 オチまでのやり取りで、定吉が「悲しゅうございます」(実際は旦那が言っている)と表現するが、これがとても良い。「悲しい」という表現が、義太夫の中身に対する評に繋がるので、旦那が余計に勘違いするのだ。「嫌だ」「辛い」でなく「悲しい」で行かなければならない。

 それで期待をさせて、「寝床でございます」で、すとーんと落とす。見事なオチだと思う。

 落語の良いところは、やるのも聴くのも気軽にできることだ。聴くのは言わずもがな、やることだって誰にでもできる。音源を勝手に覚えて、人に聴いてもらえば、「落語をやる」という行為になる。

 私は学生時代に落研に所属していた。授業やバイトのかたわら、落語に夢中だった。部室の棚には先人名人のカセットテープが並び、それを引っ張り出して聴く。気に入る噺があれば勝手に覚えて、文化祭や老人ホームの慰問などで披露する。稽古は放課後。一人一つの教室で、ただひたすら喋る。覚えたら先輩や後輩に聴いてもらう。

 大学一年生の時、困ったことがあった。先輩が毎日、私に噺を聴かせてくるのだ。そして一席やった後に「どうだった?」と訊いてくる。これには困った。

 どうだったもなにも、同じ噺を毎日やっているだけなので、ほぼ変わらない。1回目こそ色々言うが、2回目以降は言うことがない。もじもじしながら毎日を乗り切っていた。まさにあの時の先輩は、『寝床』の旦那だった。

 『寝床』の旦那のセリフで、「義太夫は私が語ろう、客が聴こう、この息が合って初めて良いものができるんだ」というのがある。自分の独演会もそうであってほしいと切に思う。

近々の公演

第十一回

ハヤシにのって

  • 日程
  •  2026年2月15日(日)
  •  開場 18:30 開演 19:00
  • 会場:
  •  港区立伝統文化交流館
  •  (港区芝浦1-11-15)
  • 出演:
  •  林家はな平「山崎屋」ほか
  •  青空一風・千風(ゲスト)
  • 料金
  •  前売 3,000円 当日3,500円
  •  大学生以下 2,000円
  •  (全席自由)
  •  
  • ご予約:
  • ・カンフェティ(事前決済/チケット発券)
  •  
  • ・カルテットオンライン(当日精算)

林家はな平 公式Webサイト

(毎月6日頃、掲載予定)

演目一覧(2026年2月6日時点)

あ行 明烏 あたま山  牛ほめ
か行 片棒 紀州 きゃいのう 甲府い 権助魚
さ行 七段目 芝浜 寿限無 崇徳院 粗忽長屋 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 道灌
な行 にらみ返し 抜け雀 寝床
は行 不動坊
ま行 まんじゅう怖い みそ豆
や行 淀五郎
ら行
わ行