講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
- 講談
瀧口 雅仁
2026/02/03
田辺銀冶、近影(講談協会HPより)
一時期、絶滅危惧種とまで言われるも、現在、東西合わせて120名を超えるまでになった講釈師。江戸から明治、大正、昭和と、主に男性が読み継いできた芸であったが、平成、令和と時代を経て、女性目線による女性の講談が世に送り出されてきた。その時、講釈師は何を考え、何を読んできたのか。第一線で活躍する女性講釈師に尋ねてみた。〈田辺銀冶(たなべぎんや)先生の前編/中編/後編のうちの前編〉
9歳でスカウトされた講釈師
昨年「十七回忌追善興行」が弟子たちによって開かれた、昭和・平成を代表する講釈師、田辺一鶴。その功績は講談を世に知らしめて、多くの個性ある弟子を育て、生涯にわたって新作を作り出したことにある。
そんな一鶴イズムを継承し、講談の原点とも言うべき軍談に積極的に取り組むばかりでなく、軍談の会を同志とともに開き、また自作の講談の中に師匠一鶴を登場させたりと、講談界を縦横無尽に飛び回る田辺銀冶に、今思うことを尋ねてみた。
―― 銀冶さんは、講釈師になるまでの経緯と真打昇進まで、他の人にはあまり見られないような経歴を送っているのが面白いなと、いつも思っています。そのあたりをまずはお聞かせ願えますか。
銀冶 8歳の時に、母親(田辺鶴英)の夢に田辺一鶴が出てきたことがすべてのきっかけです。母の若い頃には師匠がよくテレビに出ていて、そんな人が自分の夢に出てきたことを不思議がっていた時に、新聞で「一鶴修羅場道場」の記事を見つけて、「これだ!」と思って、日曜日に開講していたので、私を連れてお江戸両国亭に出かけたんです。
―― そこで銀冶さんも講談を教わったんですか。
銀冶 師匠は『三方ヶ原軍記』を読んだんですが、私は面白いとは思わないし、ワクワクもしない。チビ鶴さんが古典を読んでいたのを覚えています。
―― チビ鶴さんは、今の田辺鶴遊(たなべかくゆう)さんですね。8歳と言えば小学2年生、そこで『三方ヶ原』に魅力を感じたら凄い(笑)。
銀冶 だから私はもう行きたくなかったんですが、母が講談にハマってしまって、家で『三方ヶ原』の稽古を始めたんです。そうしたら子どもだからあっという間に覚えてしまって、一鶴に「やってごらんなさい」と言われて、私は恥ずかしがり屋なんですが、断れなくて「はい」と。それでやってみたら、「君は天才だ。僕の弟子にする」って(笑)。それで母と一緒に、9歳の時に入門することになったんです。
―― 普通は「弟子にしてください」とお願いに上がるのに、スカウトされたんですね。でも、学校に通わなければならなかったのでは。
銀冶 母親は楽屋修業をしましたが、私はまだ子どもでしたから協会には入らずに、師匠について回るといった感じでした。
―― その間に講談は教わったんですか。
銀冶 『三方ヶ原』のあと、『秋色桜』を教わりました。それから『越の海』に『正直車夫』くらいで、教室のある時に教わりました。
―― 一鶴先生も『秋色桜』をお読みになったんですね。
ここで挙がる『三方ヶ原軍記』は、講釈師になると最初に教わることの多い、徳川家康生涯ただ一度の負け戦を扱った話。『秋色桜』は上野の山に伝わる孝女の話で、女性講釈師が読むことの多い一席。『越の海』は出世相撲談。『正直車夫』は田辺派に伝わる、演題通りの正直な車引きを巡るハートウォーミングな話である。
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