きゃいのう、崇徳院、ぞろぞろ

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第7回

二十一席目 『ぞろぞろ』 ★★★

[ワンポイント] 前半と後半で主人公が入れ替わる構成になっている。前半では荒物屋(あらものや)の老夫婦が中心となり、後半では向かいの床屋が同じ幸運を求めて動き出す。同じ願い、同じ行動が、まったく違う結果を生むところが、この噺の肝である。

【あらすじ】

 稲荷神社の門前で荒物屋を営む老夫婦。何日も客が来ず、店にあるのは天井に吊るした草鞋(ぞうり)が一足だけ。店主のお爺さんが繁盛祈願で、お稲荷様へ御神酒(おみき)を供えてお詣りをする。

 しばらくすると、雨が降り出し、客がやって来て「地面がぬかるんでいるから草鞋をほしい」と言う。喜んで草鞋を売る、老夫婦。

 また客がやってきて草鞋をほしがる。「いま売り切れたばかり」と断るが、客は「何を言ってんだ、天井に一足ぶら下がってるぜ」と天井を見ると確かに一足ある。不思議に思ったが、その草鞋を売る。

 その客を見送って、天井へ目を移すと、何もない天井から新しい草鞋が「ぞろぞろ」と出てきた。これはご利益だと、喜ぶ老夫婦のもとへ客が次から次に訪れて繁盛する。

 これを見ていた向かいの床屋の主人、同じく繁盛していない。自分の店も客が「ぞろぞろ」来るようにと、お稲荷様へ御神酒を持ってお参りに行く。

 主人が店に戻ると、客がたくさん押し寄せていた……

【オチ】

 床屋の主人は、ご利益だと喜んで最初の客のヒゲを剃る。

 すると、新しいヒゲが「ぞろぞろ」。

【解説】


 オチのための落語で、緊張と緩和の意味でも秀逸なオチである。もちろん知っていれば、なんてことはないオチだが、初めて聴く人には特にインパクトの強いオチである。

 草鞋やヒゲが生えてくる音が「ぞろぞろ」なのも良い。「ぼー」でも「ざざざ」でも「にょろー」でもダメでやっぱり「ぞろぞろ」がいい。考えた人に拍手を送りたい。

 あらすじに書いてあるように、ほとんどの場合は老夫婦が主人公になっている。筆者は、父と娘の親子の形で口演するが、展開としては同じである。

 「神信心(かみしんじん)をすると良いことがある」というのは誰もが信じていることだが、本当にみんなにご利益があるわけではない。鶯谷の近くに有名な小野照崎神社(おのてるさきじんじゃ)という芸事の神様を祀った神社がある。かの渥美清がお参りして、寅さんの主役に抜擢されたことで有名になり、数多くの芸人が訪れることで知られる。

 筆者もその一人だが、まだ大きなご利益を頂いていない。おそらく小野照様も私のようなものばかりが参拝に来て、呆れているのかもしれない。

 早く私の独演会にもお客様が「ぞろぞろ」来てほしい……。

林家はな平 公式Webサイト

(毎月6日頃、掲載予定)

演目一覧

あ行 明烏 あたま山  牛ほめ
か行 片棒 紀州 きゃいのう 甲府い 権助魚
さ行 七段目 芝浜 崇徳院 粗忽長屋 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 道灌
な行 にらみ返し 抜け雀
は行 不動坊
ま行 まんじゅう怖い みそ豆
や行
ら行
わ行