にらみ返し、大工調べ、短命

「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第8回

二十三席目 『大工調べ』(だいくしらべ) ★★

【あらすじ】

 棟梁の政五郎が大工の与太郎の家を訪れると、店賃(たなちん:家賃)を滞納したせいで、大家に道具箱を持っていかれたと言う。滞納は「一両二分八百」で、与太郎は年老いた母を養っていて、仕事ができないと困ってしまう。

 そこで政五郎が「一両二分八百」のうち、手持ちの「一両二分」だけ持たせる。大家に詫びをして道具箱を返してもらいに行くが、「八百足りない」と追い返される。仕方なく政五郎も一緒に大家のところへ行く。

 棟梁は、与太郎の件の詫びを言い、店賃も後で納めるからと話すが、話はもつれて大家は取り付く島もない。あまりの大家の因業(いんごう)ぶりに、頭に血が上った棟梁が尻を捲って大胡座(おおあぐら)を引っ掻いて、大家に対して啖呵(たんか:歯切れのいい言葉で、威勢よくまくしたてること)を切る。大家がこの長屋に流れ着いたところからの所業を断罪すると、そのままお奉行さまへ訴える。

 奉行は「大家に店賃の残りを払え」と与太郎に告げ、棟梁は残りの八百を払う。やはり店賃を払わないほうが悪いのだ。これでお白洲(おしらす:町奉行所などでの裁判)は終わるかと思われたが、奉行は大家に向けて問い始める。

 「質株(しちかぶ:質屋の営業権)はあるか?」

 質株のない大家は平身低頭する。質株を所持しないで道具箱を留め置いたその罰金として、20日分の手間賃300匁(もんめ:1匁は3.75g。300匁は1.125㎏)、金に換算して5両の支払いを命じる。

 こうしてお白洲は政五郎たちが大逆転。一件落着、皆が帰ろうとするところ、奉行が政五郎を呼び止める……

【オチ】

奉行 「一両二分と八百の公事(くじ:民事訴訟)に金五両とはちと儲かったようであるな」
政五郎 「恐れ入ります」
奉行 「さすがは、大工は棟梁(だいくはとうりゅう)」
政五郎 「へえ、調べをごろうじろ(しらべをごろうじろ)」

【解説】


 「細工は流々(りゅうりゅう)、仕上げをご覧じろ」→「大工は棟梁、調べをごろうじろ」

 こういう諺(ことわざ)とか和歌のようなものをサゲに引っ掛けているものは、それ自体がわからない場合が多く、説明も必要になるので★★とした。昔の職人などがよく使った言葉で、「仕事の仕方はそれぞれで流儀があるが、途中であれこれ言わずに出来上がりで判断してくれ」というような意味になる。棟梁は「とうりょう」とは言わず、江戸っ子らしく「とうりゅう」と言わないと、流々と引っかからない。

 ただ、筆者は特に枕で説明することはない。棟梁が奉行に訴える前に与太郎に向かって「細工は流々、仕上げを御覧じろ。付いてこい!」とだけ言わせているだけである。サゲはわからなくてもこの際、良い。あのサゲは何だったのだろう?と、落語会が終わって打ち上げなんかでお客様同士で教え合ったりして貰えば、それが肴になっていて嬉しい。

 何を隠そう、私が学生時代そうだったのだ。落研の先輩と寄席に行った帰りにお酒を呑みながら、そんな話をしたことを思い出す。落語のサゲは少しわからないくらいでも、余白を楽しむことができる芸なのである。

 この噺は、サゲまでやることはほとんどない。棟梁が大家に向かって啖呵を切るところでお終(しま)いになることが多い。10回聴けば、サゲまで行くのは1回くらいだろう。こういう長い言い立て(いいたて:決まった長いセリフ)がある噺は、若いうちに覚えたほうが良いと言われる。若いうちに覚えたものは忘れないからだ。

 筆者も二ツ目になって程なく覚えたので、この啖呵の言い立てもなかなか忘れない。真打になった後に、10年ぶりくらいにこの噺をやったが、啖呵はすぐに思い出せた。以前は“立板に水のごとく”早口で言っていたが、真打になったので丁寧にやるようになった。啖呵も年齢とともに変わるのである。

 八十歳になっても威勢よく啖呵を切りたい。