古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編②)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第29回
- 講談
瀧口 雅仁
2026/03/14
赤ん坊の時の伯知。面影があるか…(松林伯知・提供)
一時期、絶滅危惧種とまで言われるも、現在、東西合わせて120名を超えるまでになった講釈師。江戸から明治、大正、昭和と、主に男性が読み継いできた芸であったが、平成、令和と時代を経て、女性目線による女性の講談が世に送り出されてきた。その時、講釈師は何を考え、何を読んできたのか。第一線で活躍する女性講釈師に尋ねてみた。〈松林伯知(しょうりんはくち)先生の前編/中編①/中編②/後編のうちの中編②〉
「見てきたホント」を語る松林流の矜持
初代の松林伯知は、1856年(安政3年)生まれで、本名は柘植正一郎。1876年(明治9年)に伊東潮花の弟子になるも、のちに二代目松林伯圓の門人となり、伯痴から松林伯知。亭号は「猫遊軒」ともした。時局の出来事や新聞記事を「新講談」「新聞講談」として読み、また『金色夜叉(こんじきやしゃ)』や『不如帰(ほととぎす)』といった小説も手掛け、人気を得た。円満な人格者であったことから「大江広元(おおえのひろもと)」、美髯を伸ばしていたことから「墨絵の達磨」などとも呼ばれた。昭和7年(1932)没。

その二代目は、1894年(明治27年)に生まれ、無声映画時代に活動弁士・國井紫香(くにいしこう)として活躍。昭和10年代に講談に転向し、六代目一龍斎貞山門下となり、一龍斎二山。1950年(昭和25年)に二代目を襲った。1954年(昭和29年)に引退し、1966年(昭和41年)没。
当代伯知は、2024年(令和6年)3月に三代目を襲名した。以下で「伯知の流派」といった記述があるのは、現伯知は神田紅門下にあっても、その名前は初代神田伯龍(かんだはくりゅう)にはじまり、初代・二代松林伯圓、そして初代伯知にあるということ故である。
―― 明治期を中心とした復活物にも積極的に取り組んでいますよね。
伯知 まだまだ面白い話がたくさんあるんです。最近、大阪の旭堂南湖先生に、初代松林伯知の探偵講談を教わりました。
―― 『鬼坊主』の黒田水精ですね。あれは面白かった。
伯知 ほかにも伯知の『水戸黄門』にSF系、翻案ミステリー系の話もあります。『空き家の美人』や、伯知版『通俗太平記』に『徳川栄華物語』。『八犬伝』とか『新選組』はマストであると思っていますが、伯知のレトロなくすぐりが好きで、「ビールにウィスキー、ブランデー、シャンパン、ベルモットにモルモット、モルモットはウサギですが……」、こういうのも講談の中で言ってみたいですね。令和の現代に、あえて(笑)。
―― 一種のアナクロさが、かえって現代に活きるということもありますから(笑)。雑誌『百花園』の中にある「仏蘭西三人兄弟」も読んでもらいたい!
伯知 あの話も面白いですよね。西洋小説の翻案物にも憧れがあります。歴史研究家と話したことがあるんですが、初代の伯知は遺族や関係者、ご当地に取材をして、それを引き事に入れているんです。
扱う歴史がまだ近いところに生きた人ですし、伯知の弟弟子にあたる悟道軒圓玉は新徴組の親戚で、『新徴組』の新聞連載ではその親戚の実際のエピソードなどを語っていたり、松林系の人は速記ばかりでなく、速記の中にそういった、見てきたようなウソの逆、「見てきたホント」を入れこんでいるんです。歴史好きとしてもかなり発見があってありがたい(笑)。私もそれに倣って、松林流に改良した話を読んでいきたいですね。
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