権助魚、壺算、明烏
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第4回
- 落語
林家 はな平
2025/08/06
明烏 (画:おかめ家ゆうこ)
奥深い「オチ」の世界
落語には、「オチ(落ち)」があり、そこにはいろいろな仕掛けや工夫が込められています。本連載『オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?』では、演じる側の視点から、筆者なりにオチのタイプを★〜★★★で分類し、あらすじ → オチ → 解説の順に紹介していきます(★の基準については、第1回をご覧ください)。
第4回では、『権助魚』『壷算』『明烏』のオチを紐解いていきます。
十席目 『権助魚』(ごんすけざかな) ★
[ワンポイント]
この噺の中心にいるのは、気の利かない奉公人・権助である。主人とおかみさんの思惑に振り回されながら、言われた通りに行動するが、その素直さがすべて裏目に出る。「権助噺」らしいボケの積み重ねが楽しめる一席だ。
◆【あらすじ】
ある商家のおかみさん。旦那の妾(めかけ)が気になって仕方がないため、権助に一円の小遣いを握らせて、妾の居所を突き止めてほしいと頼む。
床屋から帰ってきた旦那は「丸安のご主人に会いに行く」と言って出かけようとするので、無理やり権助をお供につける。なんとか権助を撒きたい旦那は、二円の小遣いをやり取引をもちかける。
「両国橋の手前で丸安さんのご主人に会い、柳橋のさる料亭へ行って芸者や太鼓持ちを上げてどんちゃん騒ぎをした後に、隅田川で舟を出して網打ちをして、旦那は湯河原へ行きました。今日はお帰りになりません」と伝えるように言われた権助。
旦那は妾の家へ向かい、一方、魚代まで貰った権助は魚屋に寄り、網取り魚を調達する。ニシン、スケソウダラ、メザシ、タコ、かまぼこを籠に入れて家に戻る。言われた通りに説明する権助だったが、おかみさんは「お前が出かけてまだ二十分しか経ってないのに、そんなことができるわけがない」と怒り出す……
◆【オチ】
それならばと権助、おかみさんに証拠の網取り魚を披露する。
権助 「北海道からニシンとスケソウダラが隅田川に上がってきて、メザシは気の弱い魚で目の玉に藁を通して五匹繋がって泳いできて、タコは寒がりだからお湯に入れたら赤くなった。かまぼこは泳ぎを知らないから、板に乗っかってきた」
ちぐはぐな説明をする権助に、おかみさんはブチ切れる。
おかみさん 「こんな魚が関東一円で獲れるわけないだろ」
権助 「一円じゃねえだ、旦那に二円で頼まれた」
◆【解説】
もともとは明確なオチはなかったようだが、いつからかこのオチができて、東京ではこの形で演じる人がほとんどである。「関東一円」という言葉が唐突に出てくることで、オチを誘発しているように思える。まさに、作られたオチっぽさは否めない。
ただ、こういう駄洒落で終わるオチは、お客さんが妙に納得するため、噺家も安心して繰り出す。いわゆる「権助噺」の代表であり、東京では二ツ目になったばかりの若手がよく演じる印象がある。権助というキャラクターが「ボケキャラ」であることがすぐに伝わるので、初心者の方にもわかりやすい。
さて、この噺には明確に笑いを取れるセリフがある。それは、家に帰った権助が旦那から教わった通りの言い訳をした後のおかみさんの返し、「お前が出かけてまだ二十分しか経ってないんだよ」である。古典落語の数あるくすぐりの中でも、指折りの外さない一言だ。
時間の経過を笑いにするくすぐりは、ほかの噺にはない。筆者もこの噺を演じるが、このセリフでウケなかったことは一度もない。「今日はあまりウケないなぁ」と思う日でも、このセリフだけは必ず笑いが起こる。それほどのキラーセリフである。すべてのネタにこういうキラーセリフがあればと思う今日この頃である。
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