権助魚、 壺算、 明烏
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第四回
- 落語
林家 はな平
2025/08/06
十一席目 壺算 (つぼざん) ★★
[ワンポイント]
落語らしい会話の積み重ねで進む噺である。水瓶(みずがめ)の値段、一荷(いっか)と二荷の違い、下取りの金額。その一つひとつは簡単だが、話が進むほど、全体がわからなくなる。観客も瀬戸物屋の店主と同じ立場で混乱を味わうことになる。
◆【あらすじ】
二荷入りの水瓶がほしい男Aが、兄貴分の男Bを訪ねて「買い物に付き合ってほしい」と頼む。二人が瀬戸物屋に行くと、Bはなぜか三円五十銭を三円にまけて、一荷入りの瓶を買うと言い出し、二人で担いで店を出る。
不審に思うAだったが、Bは「これが二荷入りに変わるぜ」と言って、また店に戻る。Bは店の主人に「間違って一荷入りを買ったが、本当は二荷入りがほしかった」と告げる。主人は「二荷入りは、倍の値段だから六円だ」と言う。
そこでBは、今買った一荷の瓶を下取りしてほしいと頼む。主人は、当たり前だが三円で下に取ってくれると答える。するとBは、「さっき渡した三円と、下に取る三円で六円になるはずだ」とまくしたて、強引に二荷入りの瓶を手に入れる。
二人が帰った後、何かがおかしいと感じた店の主人は、二人を呼び戻して説明を求める。Bは「最初に三円渡して、一荷入りの瓶を下に取ってもらうから、合わせて六円だろう」と譲らない。ついには「そろばんを出せ」と迫るが…
◆【オチ】
店の主人がそろばんで勘定を始める。最初に三円を受け取ったことは理解できるが、それで売った瓶を下に取って六円になるという理屈にどうしても納得がいかない。痺れを切らしたBは、
B 「いい加減にしろ。三円と三円で六円になるってこともわからねえのかよ!」
主人 「黙っててください。今、計算してますから! ああ、もうわからない。あなた方、この一荷入りの水瓶お持ち帰りになってください」
B 「何を言ってんだい。俺たちがほしいのは二荷入りの水瓶だ」
主人 「ですから、この三円もお返しいたします」
◆【解説】
最後はパニックになって発した言葉がオチになっている。大阪でもよく掛かる噺で、オチは違うようだが、東京ではこの形で演じる人がほとんどだ。
手持ちが三円しかないのに、六円の品物を買おうとする無茶苦茶な展開だが、主人公の強引さに瀬戸物屋の店主は言いくるめられてしまう。その強引さの可笑しさに浸ることができれば笑える噺だが、お客さんも店主のように「どうして?」と思い始めると、途端にウケなくなる。その疑問が最後まで尾を引いてしまうのである。
少しお客さんを選ぶ噺かもしれない。最後は、店の主人も訳がわからなくなり、一荷入りの水瓶も三円も持たせてしまう。ちなみに、東京では「水瓶」、大阪では「壺」と呼ぶ。尺も東西で違っていて、東京は15分程度の寄席ネタなのに対して、大阪では30分弱の大ネタとして演じられる印象がある。
オチ自体の破壊力はさほど強くないため、店主が慌てている場面が最も盛り上がることが多い。一荷は約50リットルほどの容量で、二荷はその倍(100リットル)となる。
いま読まれています!
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「噺家渡世の余生な噺」 第18回
人に負けないもの
~情熱は、巡ってくる
柳家 小志ん
2026/10/14
「ずいひつかつどお」 第13回
なつさんさようなら
~夏が終わって良かった。夏なんていいところが一つもないのだから
立川 談寛
2026/10/09
「お恐れながら申し上げます」 第14回
噺家の衣替えの話
~いちばん大変なのは、半衿の縫い付け?
入船亭 扇太
2026/10/11
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第14回
〈書評〉 たぶん、僕のジャム。 (金子学 著)
~中学校を舞台に笑いが連発する短編コント小説集!
笑福亭 茶光
2026/07/29
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回
〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)
~凄腕営業マンが命がけで売上2億円を目指す、異色の犯罪ミステリー小説!
笑福亭 茶光
2026/10/12
「二藍の文箱」 第17回
ニッポンの祭りを呑む
~茨城・石岡の祭りで重ねた出会いと再会の物語。幌獅子、祭囃子、川海老、地酒。その土地の匂いも伝わる、味わい深いエッセイ
三遊亭 司
2026/10/02
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
「継続は力なり」ではない
~僕を待っていた、悲しい結末。“計画倒れ人生”を笑い飛ばす愉快な実話エッセイ!?
桂 三四郎
2026/09/29
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「お恐れながら申し上げます」 第13回
深夜寄席が大変なことになっています
~新宿と復活した池袋、2つの「深夜寄席」が熱い!!
入船亭 扇太
2026/09/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「お恐れながら申し上げます」 第14回
噺家の衣替えの話
~いちばん大変なのは、半衿の縫い付け?
入船亭 扇太
2026/10/11
「朝橘目線」 第18回
かしましや カフェ見た俺の 帰り様
~カフェが苦手な落語家を人気カフェへ連れて行ったらどうなる?
三遊亭 朝橘
2026/10/08
「ずいひつかつどお」 第13回
なつさんさようなら
~夏が終わって良かった。夏なんていいところが一つもないのだから
立川 談寛
2026/10/09
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回
〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)
~凄腕営業マンが命がけで売上2億円を目指す、異色の犯罪ミステリー小説!
笑福亭 茶光
2026/10/12
「噺家渡世の余生な噺」 第18回
人に負けないもの
~情熱は、巡ってくる
柳家 小志ん
2026/10/14
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第14回
〈書評〉 たぶん、僕のジャム。 (金子学 著)
~中学校を舞台に笑いが連発する短編コント小説集!
笑福亭 茶光
2026/07/29
「古今亭佑輔とメタバースの世界」 第14回
恩返し
~師匠から頂いた「佑輔」という名前は、今も進む道を照らしてくれる
古今亭 佑輔
2026/10/05
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「古今亭佑輔とメタバースの世界」 第14回
恩返し
~師匠から頂いた「佑輔」という名前は、今も進む道を照らしてくれる
古今亭 佑輔
2026/10/05
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
「継続は力なり」ではない
~僕を待っていた、悲しい結末。“計画倒れ人生”を笑い飛ばす愉快な実話エッセイ!?
桂 三四郎
2026/09/29
「コソメキネマ」 第十七回
玉川祐子師匠
~103歳の玉川祐子師匠、ついに『徹子の部屋』へ!! 映画は『ヤング@ハート』をご紹介。
港家 小そめ
2026/09/19
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第18回
友達ほしい
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/10/03
「マクラになるかも知れない話」 第十四回
君たちはどう痩せるか
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいに笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/09/25
「テーマをもらえば考えます」 第14回
師匠のコーヒーは
~笑いも苦みもたっぷり、師弟をつなぐコーヒーの思い出を綴ったエッセイ
三遊亭 天どん
2026/09/30
「くだらな観音菩薩」 第17回
善財童子
~自転車屋の陰謀から善財童子へ。妄想と悟りが交錯する、愉快な仏像コラム!!
林家 きく麿
2026/09/16
月刊「浪曲つれづれ」 第16回
2026年9月のつれづれ(奈々福がうなる日本国憲法、玉川太福と玉川祐子のテレビ出演、東家三可子・東家千春の挑戦)
~伝統を守りながら、変化する芸能の姿。浪曲の現在地を描く、月イチ浪曲レポート
杉江 松恋
2026/09/15
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
「継続は力なり」ではない
~僕を待っていた、悲しい結末。“計画倒れ人生”を笑い飛ばす愉快な実話エッセイ!?
桂 三四郎
2026/09/29
「令和らくご改造計画」
第十四話 「踊る金持ちピエロ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/09/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「座布団の片隅から」 第17回
好楽
~祝・傘寿! タフすぎる三遊亭好楽師匠の宴
三遊亭 好二郎
2026/09/07
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回
四段目、 そば清、 愛宕山
~初心者でも楽しめる、オチがもっと面白くなる落語入門
林家 はな平
2026/09/06
「艶やかな不安の光沢」 第4回
N氏の碑から浪江の海まで
~長崎の碧い海から、忘れられない故郷の海へ。喪失と希望のロードムービーのようなエッセイ
林家 彦三
2026/09/04
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第17回
ありがとう失言、待っているよ暴言
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/09/03
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25