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転失気、まんじゅう怖い、みそ豆

「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第6回

十七席目 『まんじゅう怖い』 ★★

【あらすじ】

 長屋の連中が集まって、わいわい喋っている。「好きなもの」「嫌いなもの」を話しているうちに、ある強情な男が「俺に怖いものはない!」と言い出す。

 本当に怖いものはないのかと皆が問うと、「実はまんじゅうが怖い」と言い出す。思い出しただけで気分が悪いからと、隣の部屋で寝込んでしまう。

 仲間たちは、そいつをこらしめようと、いろんな饅頭を買ってきて、お盆に乗せて枕元に置く。隣の部屋から覗きながら、饅頭に出くわして苦しむ姿を見て楽しもうという算段であったが……

【オチ】

 目覚めた男は、饅頭の山を見て驚き、悶絶し、「怖い怖い」と言いながら饅頭を貪り食べ始める。

 それを隣の部屋から見た男たちは、

男たち「あの野郎、饅頭食ってやがる。おい、饅頭が怖い怖いって言ってたのに食いやがって、本当は一体なにが怖いんだ?」
男「この辺で、熱いお茶が一杯怖い」

【解説】

 落語の演目で有名だが、オチは粋で少しわかりにくい。初めてこのオチを聞くと、一呼吸置いて気がつく。落語らしいオチである。

 最後に問う質問も、良いパスだと思う。「何が怖いんだ?」と聞くから良いのであって、「なんで嘘ついたんだ?」とか「本当は好きじゃねえか!」と怒鳴るだけだと、このオチには繋がらない。

 そう考えると、登場人物が打ち合わせしてオチを導き出しているようにも思えて来て、みんなが可愛い。落語国の住人はみんな可愛いのだ。

 この噺は、前半の「好きなもの」「嫌いなもの」を言い合う場面を自由に作り変えてやっている人が多い。現代のことを入れても違和感なく乗り切れる、アレンジしやすい場面である。ただ、あまりにも現代にし過ぎると、「まんじゅう」というワードでいきなり古典に戻されるので塩梅は考えるべきだ。

 ちなみにオチのセリフは「苦いお茶」でも「渋いお茶」でもなんでも良い。

 オチの言い方も好きで、「この辺で」というのがとにかく良い。「この次は」でも「今度は」でもない。「この辺で」なのが大好きだ。