優しさと知性で物語を紡ぐ 田辺一邑(中編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第19回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/11/30
真打昇進時、師匠田辺一鶴とともに(田辺一邑・提供)
一時期、絶滅危惧種とまで言われるも、現在、東西合わせて120名を超えるまでになった講釈師。江戸から明治、大正、昭和と、主に男性が読み継いできた芸であったが、平成、令和と時代を経て、女性目線による女性の講談が世に送り出されてきた。その時、講釈師は何を考え、何を読んできたのか。第一線で活躍する女性講釈師に尋ねてみた。〈田辺一邑(たなべいちゆう)先生の前編/中編/後編のうちの中編〉
前編はこちら
手探りの稽古
―― 入門当時の講談界はどのような感じでしたか。
一邑 何だかよくわからない(笑)。それ以前に、どうしていいかわからなかった。今と違って小屋が本牧亭と永谷の演芸場ぐらいで勉強の場もなかったですし、よそのご一門の先生のところに勉強に行くこともほとんどできませんでした。協会全体が後進を育てようという雰囲気ではなかったんです。
―― 師匠からの話の稽古はあまりなかったんですか。
一邑 『三方ヶ原軍記』と『秋色桜』は教わりました。あとは「本は貸してあげるから」と言われたんですが、ぐちゃぐちゃでその本がどこにあるかわからない(笑)。講談大学で、話の素材として受講者に雑誌をコピーしたものを配っていたんですが、それを参考にしたり、国立演芸場の図書室、昔は書庫に入れてもらえたんですが、そこで講談本を見たりして自力で話を作るしかありませんでした。
―― 私は平井のイッカク書房を訪ねた時に、二階に上がる階段のところに新聞紙が積んであって、「先生、整理されたらどうですか」と話したら、「全部必要なんだ!」って(笑)。あとは江戸川の河原に連れて行かれて『三方ヶ原軍記』を教えられそうになったことがあります。
一邑 誰かに稽古をつけたかったのかも知れませんね(笑)。
はとバスガイドでの修練
前座時代に苦労はつきものである。金がない、仕事がない、食べられない……。一邑が入門した時代は、ホームグラウンドであった上野・本牧亭が閉業し(講談運営は別会場等で継続中)、講談界はいわゆる「冬の時代」にあった。だが、暮らしていくには何かをしなければならない。
今、芸歴20~30年の講釈師に話を聞くと、勉強になり、暮らしの助けになったのが、はとバスの仕事であったと言う。バスで東京の観光名所を巡り、講釈師があれこれとガイドをするというものだ。そこでその頃の講談界を振り返ってもらった。
―― 先日、ワイドショーで、以前特集された、先生がはとバスツアーでガイドをしている映像が流れたのを見たのですが、ツアーガイドをしていたのは、その頃のことですか。
一邑 そうです。若州兄さんはそれで食いつないでいました。バスツアーには定期と主催という二種類あって、主催は人数が集まらないと催行しないんですが、定期は路線バスと同じ定義なので一人でもやる。当時、講談師のコースは定期扱いで、必ず行かなければなりませんでした。私の最低人数は御夫婦一組、いちばん辛かったのは日本語がわからない韓国人三人のみという時でした。
―― それは苦行ですね。
一邑 鍛えられます。話を繋がなければならないので、目に入るものを何でも話題にします。渋滞した時は時間が延びてなおさら大変。おかげで話芸の鍛錬になりましたし、東京の史跡にも詳しくなりました。あとは永谷商事さんが主催していた散歩ツアーも、こちらがコースの企画も出せたりしたのでいろいろ考えました。
いま読まれています!
「テーマをもらえば考えます」 第10回
半袖の長ズボン
~6月1日は、衣替え。落語家の着物事情から冬の半袖問題、パワーショルダー論まで飛び出す脱線エッセイ!!!
三遊亭 天どん
2026/05/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第39回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回
〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)
~芸を支えた建物の記憶と不思議な魅力
杉江 松恋
2026/05/29
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「テーマをもらえば考えます」 第9回
頑張れ!!るるめちゃん!!
~5月11日は、ご当地キャラの日。東久留米の“るるめちゃん”を描いてみよう
三遊亭 天どん
2026/04/30
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
シリーズ「思い出の味」 第24回
母のカレーと鯨汁、時々“かきのもと”
~食べ物の記憶には、不思議と人の面影が宿る
春風亭 鯉づむ
2026/05/27
「二藍の文箱」 第12回
午後の逡巡
~その街に息づいた食堂で、ひとり手酌もまた愉し
三遊亭 司
2026/05/02
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回
〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)
~芸を支えた建物の記憶と不思議な魅力
杉江 松恋
2026/05/29
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
シリーズ「思い出の味」 第10回
松鶴、鶴光、羽光、羽太郎の四世代の飲食
~気をつかう師匠との食事
笑福亭 羽光
2025/08/04
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「テーマをもらえば考えます」 第10回
半袖の長ズボン
~6月1日は、衣替え。落語家の着物事情から冬の半袖問題、パワーショルダー論まで飛び出す脱線エッセイ!!!
三遊亭 天どん
2026/05/31
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第12回
突撃リポート! 落語芸術協会・真打昇進襲名披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート③
服部 拓也
2026/05/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第39回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/31
シリーズ「思い出の味」 第24回
母のカレーと鯨汁、時々“かきのもと”
~食べ物の記憶には、不思議と人の面影が宿る
春風亭 鯉づむ
2026/05/27
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
シリーズ「思い出の味」 第6回
茶色いうどん
~自分の未来を見つめる8歳の少年
三遊亭 ごはんつぶ
2025/06/25
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験リポート②
服部 拓也
2026/04/23
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
シリーズ「思い出の味」 第22回
亡き父の味と、鰻に導かれる名人の味
~人生と落語と鰻の不思議なご縁
三遊亭 あら馬
2026/04/20
「くだらな観音菩薩」 第12回
日光菩薩と月光菩薩
~怒りと笑いを行き来しながら、菩薩様のような優しさに辿り着くコラム
林家 きく麿
2026/04/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「令和らくご改造計画」
第九話 「地獄のモーニングコール」
~落語家は寝すぎ? 働かなすぎ? 前座が仕掛ける“狂気の作戦”とは!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/04/12
「講談最前線」 第16回
2026年4月の最前線 【前編】 (講談協会が一般社団法人として始動へ)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/04/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第12回
一粒の麦 ~世界に広がれ、落語の輪 in 名古屋!
~名古屋の演芸文化を支える多彩な人たちの静かな情熱とリアルな声を追ったコラム
シン・道楽亭
2026/04/10
「座布団の片隅から」 第12回
地獄
~春風亭㐂いち兄さん、柳家小はだ兄さん、三遊亭歌彦さんと僕でスキーに行ってきたのだが…
三遊亭 好二郎
2026/04/07
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25