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〈書評〉 笑点出演者其俤 三〇〇〇回の記録と余禄 (神保喜利彦 著)

「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第15回

〈書評〉 笑点出演者其俤 三〇〇〇回の記録と余禄 (神保喜利彦 著)
杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

『笑点』を読み解く一冊

 初めて広沢瓢右衛門(ひろさわひょうえもん)をテレビで観たのは、『笑点』の演芸コーナーだと記憶していた。

 それがどうやら誤りらしいとわかったのは、神保喜利彦『笑点出演者其俤 三〇〇〇回の記録と余禄』(夜霧書林)を読んだからである。題名の読みは「しょうてんしゅつえんしゃそのおもかげ」でいいのかな。一般には流通していない本だが、AmazonやBOOTHなどで購入が可能なので興味を持った人は注文してみていただきたい。なお、ネット販売では日本テレビに著作権がある番組に配慮してか、書名が『笑点非公式出演者其俤』と表記されている。

 神保は労著『東京漫才全史』(筑摩叢書)の著者で、芸能史に関して年齢からは信じられない博識の持ち主だ。すべてを網羅するという熱意があり、以前本欄でも紹介した『香盤残酷物語 落語協会・芸術協会の百年史』(夜霧書林)は、両協会に属した落語家の昇進を年代順に調べ上げた一冊である。これによってさまざまな都市伝説が否定されるに至った。

 デビュー作である『東京漫才全史』の執筆動機も、正史がないために伝聞や憶測で東京漫才の、特に戦前から高度成長期に至るまでの歴史が曖昧に語られ、引用が度重なって行われたために、俗説が蔓延するに至った現状を憂いてのものだったと思われる。現在のように生成AIによって真偽定かではない風説が撒き散らされるようになった世情においては、神保のように一次資料を丹念に当たってくれる調査者はありがたい存在である。

 長寿番組として安定した人気を誇る『笑点』については、話楽生Web読者に改めて説明する必要はないだろう。誰かが『笑点』に出演するということは、一般的には番組最後の「大喜利」コーナーへのそれを意味する。

 だが演芸ファンにはこれまた説明する必要はないと思われるが、即興で謎かけなどのお題を出して演者が珍答を競い合うあれは、本来は興行のおまけであり、もともとさまざまな形式があったものなのである。もちろん、回答の成否で座布団を奪い合うという形式こそは『笑点』最大の発明だった。