四段目、 そば清、 愛宕山

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回

四段目、 そば清、 愛宕山

愛宕山(画:おかめ家ゆうこ)

林家 はな平

執筆者

林家 はな平

執筆者プロフィール

オチがもっと面白くなる落語入門!

 落語といえば、やっぱり最後の「オチ」。ひと口にオチと申しましても、そこには笑っていただくための、いろんな仕掛けや工夫が隠れております。この連載では、そんなオチを〈演じる側の視点〉から、「あらすじ」とともにやさしく解説。さらに、その仕掛けを★★★の三段階で分類いたします(の基準は、第一回をご参照ください)。

 第十七回は、四段目そば清愛宕山の三席。それぞれ、いったいどんな仕掛けで最後の笑いにつながるのか。初心者の方でも楽しめる、オチがもっと面白くなる落語入門の幕開きでございます。

四十九席目 四段目 (よだんめ) 

[ワンポイント]
芝居の真似をしていたら、まわりは本気だと勘違い! 芝居好きの丁稚(てっち)、定吉(さだきち)が蔵の中で演じるのは、『忠臣蔵』の切腹場面。本人は役になりきっているだけなのに、大人たちは大騒ぎ。最後には芝居の台詞と現実がぴたりと重なり、洒落の効いたオチにつながる。

【あらすじ】

 商家の丁稚である定吉は、大の芝居好き。

 今日もお使いに出掛けたが、やはり芝居見物をして帰りが遅くなる。旦那の咎め(とがめ)に対して、お使い先の主人が不在だったとか、父が怪我をしたなどと嘘をつくが、旦那は騙されない。芝居を観てたんだろうと問う旦那に対し、定吉は観ていないし、そもそも芝居は嫌いだと言い出す始末。

 そこで旦那は、わざと『忠臣蔵』の間違った内容を話すと、定吉はそれは違うと言う。旦那がなぜ違うか問うと、「今、観てきたからだ」とボロを出してしまう。語るに落ちた定吉を懲らしめるために、旦那は定吉を蔵に閉じ込める。

 蔵に閉じ込められた定吉は、お腹が空いてきたのを紛らわせるために『忠臣蔵』の「四段目」の真似事を始める。切腹をした塩冶判官(えんやはんがん:浅野内匠頭をモデルにした役)が、家老の大星由良之助(おおぼしゆらのすけ:大石内蔵助をモデルにした役)を待つクライマックス。到着した大星が、

大星 「御前ーー!」
判官 「由良之助かあ」
大星 「ははあぁ」
判官 「待ちかねたぁ」

 そんなことをやっていても腹は減ってくる。女中のお清が蔵の中を覗くと、定吉が短刀を持って腹を斬る仕草をしている。これを旦那に報告すると、“定吉が蔵に閉じ込められ、腹が減った辛さで命を絶とうとしている”と勘違いした旦那は、おひつを持って蔵へと急ぐが……

【オチ】

 おひつを横抱きにして、バタバタバタと蔵に走る旦那。戸を開けると、おひつを突き出しながら、

旦那 「御膳(御前)!」
定吉 「蔵のうち(由良之助)でか」
旦那 「ははあ」
定吉 「待ちかねた」

【解説】

 
 洒落で終わっているだけなので、にした。

 「蔵のうち」と「由良之助」を掛けて言うのがかなり強引な気がするが、芝居台詞を当たり前に調理する古典落語らしい。「御膳!」「待ちかねた」とシンプルにしているのも聴いたことがある。

 『忠臣蔵』の「四段目」は、“通さん場”といわれ、席を立つことも許されないほどの緊迫した場面である。判官が切腹し、城の明け渡しを迫られる前半最大の山場だ。私も何度か観たことがあるが、それはそれは長い。

 切腹までも長いし、切腹してからも長い。腹を斬っているのに判官がなかなか死なないし、よく喋る。お芝居の面白いところだ。その場面を定吉が綿密に解説しながら、一人で演じているのが可愛い。しかも蔵の中で。上方だと題が『蔵丁稚』となる。

 実はまったく同じオチの噺がある。『淀五郎(よどごろう)』だ。ところが、同じオチなのに『淀五郎』は、かなり趣が違う。『四段目』のほうは、お腹が空いた定吉がご飯にありつける安堵感から来る「待ちかねた」だ。

 対する『淀五郎』は、役者の苦悩を描いた噺だ。主人公の淀五郎は判官役で、由良之助役の市川団蔵(いちかわだんぞう)からシゴキを受ける。花道から側まで寄ってきて台詞を言うはずなのに、花道から動かずに台詞を言う。

 市川団蔵なりのシゴキだったが、悩んだ淀五郎は中村仲蔵(なかむらなかぞう)にまで相談をし、数日後に死ぬ覚悟で判官役を演じる。

 すると、今まで来なかった市川団蔵がそばに来てくれて、「御前!」と言う。淀五郎はやっと自分の芝居を認めてもらえたという万感の思いを込めて「待ちかねた」と言う。こちらのほうが、の数が多そうだ。