四段目、 そば清、 愛宕山

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回

五十席目 そば清 (そばせい) ★★

[ワンポイント]
そばの大食い自慢が、欲をかいてとんでもない結末を迎える。豪快な食べっぷり、「どーも」という独特の口調、そして信州で出会うウワバミ(大蛇)と赤い草が見どころである。とりわけ赤い草の性質をどう説明するかは、演者の腕の見せどころで、それが最後のオチの効き方まで左右する。

【あらすじ】

 そば屋で、見慣れない男がもりそばを大量に食べている。その様子に感心したまわりの客が、男にもりそばを二十枚食べられるかどうかという賭けを持ちかける。男は難なく二十枚を食べ、賭け金を得て帰っていく。

 悔しい客たちは、翌日に再びやって来た男に対して三十枚の勝負をするが、またしても男はペロリと完食してしまう。常連客の話で、あの男の本名は清兵衛で、通称『おそばの清兵衛』、略して『そば清』といって、そばの大食いで家を建てた有名人だとわかる。

 悔しさがおさまらない客たちは、今度は五十枚で賭けを持ちかける。清兵衛もさすがに五十枚は初めてなので自信が揺らぎ、「日を改めて」とその場を去る。

 そばの本場、信州を旅する清兵衛。ある日、山奥に迷い込んだ清兵衛は、大きなウワバミが猟師を丸呑みにするところを目撃する。腹が膨れ上がったウワバミは苦しむが、側に生えていた赤い草を舐めると、腹が元どおりにしぼんで、藪の向こうに消える。あの赤い草を舐めれば何でも消化できると考えた清兵衛は、その草を摘んで江戸へ持ち帰る。

 例のそば屋を訪ねた清兵衛、賭けに乗り、さらに多い六十枚のもりそばを食べることを宣言する。五十枚までは順調に食べられたが、そこから苦しくなり、いったん席を外したいと申し出て、縁側に出て障子を閉め切らせる。清兵衛は、信州で手に入れた赤い草を舐め始めるが……

【オチ】

 客たちは、障子の向こうが静かになったので、心配になってくる。

客 「清兵衛さん! 大丈夫かい?」

 ガラッと障子を開けると、

客 「あれ? 清兵衛さん、居なくなっちゃった。そばが羽織を着て座ってらぁ」

【解説】


 オチを地の文(客観的な状況や情景を説明する部分)にする人もいるが、私は台詞でオチを言うほうが好きだ。オチを言った後に、お客様の頭の上に「?」が浮かぶ割合が多い噺だ。

 ウワバミは人間を呑んで、草を食べて消化した。そう、この赤い草は“人間を溶かす”のだ。清兵衛さんは、そばを消化しようと思ったが、自分自身だけ溶かされて、効き目のないそばだけ残ったのだ。

 噺の途中で、「この赤い草は人間を溶かすが、何でも溶かすわけではないということです。それを踏まえて噺の後半へ」と注釈を挟まないと、オチが効いてこない。その説明臭さがかえって、噺の面白さにも繋がっているように思える。演者それぞれの例えで、この赤い草を説明するのだ。

 中にはオチを言った後に、説明を加える人もいる。そういうバリエーションも面白い。

 清兵衛さんのキャラクターが濃い噺で、お店を訪ねてくる時や、帰る時に言う「どーも」というフレーズが印象に残る。落語は共通して、八五郎や熊五郎がいろいろな噺に登場するが、この清兵衛さんの特殊なキャラはこの噺にしか登場しない。

 先人の音源を聴くと、すでに「どーも」が定着しているので、キャラのルーツがどこにあるのか知りたい。