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権助魚、壺算、明烏

林家はな平の「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第4回

十一席目 『壺算』 ★★

【あらすじ】

 二荷(にか)入りの水瓶(みずがめ)がほしい男Aが、兄貴分の男Bを訪ねて「買い物に付き合ってほしい」と頼む。二人が瀬戸物屋に行くと、Bはなぜか三円五十銭を三円にまけて、一荷入りの瓶(かめ)を買うと言い出し、二人で担いで店を出る。

 不審に思うAだったが、Bは「これが二荷入りに変わるぜ」と言って、また店に戻る。Bは店の主人に「間違って一荷入りを買ったが、本当は二荷入りがほしかった」と告げる。主人は「二荷入りは、倍の値段だから六円だ」と言う。

 そこでBは、今買った一荷の瓶を下取りしてほしいと頼む。主人は、当たり前だが三円で下に取ってくれると答える。するとBは、「さっき渡した三円と、下に取る三円で六円になるはずだ」とまくしたて、強引に二荷入りの瓶を手に入れる。

 二人が帰った後、何かがおかしいと感じた店の主人は、二人を呼び戻して説明を求める。Bは「最初に三円渡して、一荷入りの瓶を下に取ってもらうから、合わせて六円だろう」と譲らない。ついには「そろばんを出せ」と迫るが……。

【オチ】

 店の主人がそろばんで勘定を始める。最初に三円を受け取ったことは理解できるが、それで売った瓶を下に取って六円になるという理屈にどうしても納得がいかない。痺れを切らしたBは、

B「いい加減にしろ。三円と三円で六円になるってこともわからねえのかよ!」
主人「黙っててください。今、計算してますから! ああ、もうわからない。あなた方、この一荷入りの水瓶お持ち帰りになってください」
B「何を言ってんだい。俺たちがほしいのは二荷入りの水瓶だ」
主人「ですから、この三円もお返しいたします」

【解説】

 最後はパニックになって発した言葉がオチになっている。大阪でもよく掛かる噺で、オチは違うようだが、東京ではこの形で演じる人がほとんどだ。

 手持ちが三円しかないのに、六円の品物を買おうとする無茶苦茶な展開だが、主人公の強引さに瀬戸物屋の店主は言いくるめられてしまう。その強引さの可笑しさに浸ることができれば笑える噺だが、お客さんも店主のように「どうして?」と思い始めると、途端にウケなくなる。その疑問が最後まで尾を引いてしまうのである。

 少しお客さんを選ぶ噺かもしれない。最後は、店の主人も訳がわからなくなり、一荷入りの水瓶も三円も持たせてしまう。ちなみに、東京では「水瓶(みずがめ)」、大阪では「壺(つぼ)」と呼ぶ。尺も東西で違っていて、東京は一五分程度の寄席ネタなのに対して、大阪では三十分弱の大ネタとして演じられる印象がある。

 オチ自体の破壊力はさほど強くないため、店主が慌てている場面が最も盛り上がることが多い。一荷(いっか)は約五十リットルほどの容量で、二荷はその倍(百リットル)となる。