紀州、 片棒、 つる
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第五回
- 落語
林家 はな平
2025/09/06
つる (画:おかめ家ゆうこ)
奥深い「オチ」の世界
落語には、「オチ(落ち)」があり、そこにはいろいろな仕掛けや工夫が込められています。本連載では、〈演じる側の視点〉から、筆者なりにオチのタイプを★〜★★★で分類し、[あらすじ][オチ][解説]の順に紹介します(★の数は、第五回をご参照ください)。
第五回は、紀州★、 片棒★★、 つる★★★です。
十三席目 紀州 (きしゅう) ★
[ワンポイント]
この噺は、歴史の知識がなくても楽しめる。むしろ知りすぎていると野暮になる。次の将軍が決まるという大騒動が、鍛冶屋の「トンテンカン」という音で左右される。そのあり得なさを、語り一本で押し切るのが地噺の面白さである。
◆【あらすじ】
徳川家七代将軍、徳川家継(とくがわ いえつぐ)は幼くして亡くなったので、後継問題が勃発。中でも有力な御三家の内の、尾州公(尾張藩の藩主)の徳川継友(つぐとも)か紀州公(紀州藩の藩主)の徳川吉宗(よしむね)で意見が割れていた。
江戸城にて評議がある日、尾州公は自分の屋敷から駕籠(かご)に乗り、登城する途中で鍛冶屋の前を通る。
刀鍛冶が「トンテンカン、トンテンカン」と仕事をする音が尾州公には「テンカ、トル(天下取る)」と聞こえて、江戸城へと足が早まる。
江戸城にて評議が始まると、尾州公は将軍職を打診されたが、これを断る。一度断って、もう一度勧められて仕方なく請け合おうという算段である。
ところが今度は、紀州公に打診が来る。紀州公も同じように一旦は断るが、「なれども、下万民のため、任官いたすべし」と引き受けて、八代将軍の座は吉宗に渡ってしまう……
◆【オチ】
しょんぼりしながら、駕籠に乗って自分の屋敷に向かうと、まだ鍛冶屋が仕事をしている。
「トンテンカン、トンテンカン」
これがまた尾州公には「テンカ、トル」と聞こえる。
尾州公 「そうか、紀州は若年であるから、やはり次の天下は尾州公にお願いしますと使者をよこして頼みに来るのであろう」
尾州公が鍛冶屋の店先を覗く。職人が真っ赤に焼けた鉄(かね)を水につけると、
「キィ、シュウー(紀州)」
◆【解説】
地噺(じばなし)と言って、会話ではなく、地の語りで噺が進んでいく。
本筋は短いが、そこに脱線(漫談)が入るから、どんどん長くなる。筆者もはじめは30分の長い噺であった。それが回を重ねるごとに、無駄を削ぎ落としていき、現在は15分〜20分の噺に収まった。
地噺の難しいところは、本筋と脱線部分の境い目にあると思う。講談調のように本筋を語り、脱線でほぐれた雰囲気を戻す作業が大事に思う。脱線しすぎて、本筋がわからなくなってしまっては元も子もない。内容は伝わるべきである。
ただ、その内容が馬鹿馬鹿しい。もちろんこんなことで将軍が決まるはずはない。オチも洒落で終わるわけだが、一度、お客様に「これは本当ですか?」と訊かれたことがある。その方がものすごく素直で純粋な性格だからか、私の演じ方が良かったのかわからないが、後者の方だと信じたい。
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