紀州、 片棒、 つる
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第五回
- 落語
林家 はな平
2025/09/06
十五席目 つる ★★★
[ワンポイント]
この噺では、隠居のいい加減な説明が発端となるが、主役は八五郎である。聞いた話をそのまま信じ、人に伝えようとして失敗を重ねる。その一生懸命さが、結果的に“名オチ”を生み出す。単純だが、計算された笑いが詰まっている。
◆【あらすじ】
いつものように隠居の元を訪れる八五郎。話題が、床屋にあった掛け軸の鶴の絵に及ぶ。「仲間が『鶴は日本の名鳥だ』と言ったが、どうしてか」と尋ねると、「鶴は姿が美しくて情も深いので、日本の名鳥だ」と言う。
じゃあ、「鶴はどうして『つる』というのか?」と聞くと、困った隠居がこう答える。
鶴は元は首長鳥(くびながどり)と言って、昔あるお爺さんが浜辺に立って遥か沖の方を眺めていると、首長鳥のオスが「つーーー」っと飛んで来て、その後、メスが「るーーー」っと飛んで来たから、「つる」と呼ばれることになったという。
それを聞いた八五郎が早速、友だちの家に試しに行く。
「首長鳥のオスがつるーーーっと飛んで来て、メスが……」と上手くいかない。もう一度、隠居のところに聞きに行く八五郎、再度、友だちの家に試しに行くが…
◆【オチ】
八五郎 「今度は間違えねえぞ。オスがつーーーっと飛んできて、浜辺の松の枝にるっと止まったんだ。で、後からメスが……」
友だち 「だから、後からメスがなんて飛んで来たんだ?」
八五郎 「後からメスが……黙って飛んで来た」
◆【解説】
上方発祥の噺で、学校公演など、子供の前でやることが多い。短い噺でとてもくだらない噺だが、オチは秀逸である。八五郎史上、渾身の一言だと思う。
「……黙って飛んで来た」
こんなに腑に落ちるセリフはない。とても馬鹿馬鹿しい内容なので、その馬鹿馬鹿しさをいかにシラけないように喋るかが肝となる。
「つー」っと来て「るー」っと来たから「つる」なんて、最初から嘘だとわかっているわけだが、その疑問を通り越して、主人公がその気になって試そうとするところがおかしい。
「この噺、馬鹿馬鹿しくて、くだらないですよね?」というスタンスでお客様に歩み寄ってしまうと途端にウケなくなるので、とにかく主人公の気持ちで素直に演じることにしている。
いつか、このメスの首長鳥のように、ご託を並べず黙って演じたい。

▼林家はな平 公式Webサイト
▼林家はな平 X
(毎月6日頃、配信予定)
●演目一覧(2026年10月時点 / 計54席)
あ行 明烏 愛宕山 あたま山 一分茶番 井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿 お見立て 親子酒
か行 火事息子 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚 権兵衛狸
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 松竹梅 崇徳院 粗忽長屋 そば清 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 天狗裁き 道灌 時そば
な行 二番煎じ にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 棒鱈 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆 百川
や行 四段目 淀五郎
ら行
わ行
―― 林家はな平『オチ研究会 なぜこのサゲはウケるのか?』連載一覧
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