四段目、 そば清、 愛宕山
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回
- 落語
林家 はな平
2026/09/06
五十一席目 愛宕山 (あたごやま) ★★★
[ワンポイント]
『愛宕山』は、落語の中でも演者が全身を使う「アスレチック落語」である。山を登り、傘を使って谷底へ飛び降り、最後には崖の上へ大ジャンプ。そんな無茶をするのが幇間(たいこもち)の一八(いっぱち)だ。客からのご祝儀で暮らす身だけに、金持ちの旦那に振り回されながら体を張り続けるのである。
◆【あらすじ】
江戸から商家の旦那とその一行、そして幇間の一八が京都の愛宕山にやってくる。
みんなで山登りをして、中腹までやってくると、旦那は“かわらけ投げ”を始める。土でできた皿を遠くにある輪っかの中に投げ入れる遊びである。いくら投げても入らない旦那は、今度は持っていた小判を投げ始める。一八は必死で止めるが、持っていた三十両を全部投げてしまう。
うなだれる一八に、旦那は「小判は拾ったやつのものだ」と言う。それならばと、茶店で借りた番傘を開いて、小判ほしさに谷底へ飛ぶ一八。小判を全部拾って、さあ上がろうとするが……
◆【オチ】
谷底へ降りるのは簡単だが、登るのは難しい。
しばらく考えていた一八は、自分の着物を脱いでこれを裂き始めた。そして縄をこさえた一八は、崖に生えている竹めがけて縄を投げつけ、結ぶ。
縄を手繰り寄せるだけ手繰り寄せて、ぽんと足で蹴ると、竹がしなって体が浮き上がって、また旦那のところへ飛び戻ってくる!
旦那 「大したやつだ。生涯贔屓(ひいき)にするぞ」
一八 「ありがとうございます」
旦那 「金はどうした?」
一八 「あっ、忘れてきた」
◆【解説】
緊張と緩和の極みのオチである。
このネタは“アスレチック落語”で、山登りに始まり、かわらけ投げ、傘を使っての崖下り、そして最後の特大ジャンプによる崖上がり。体力を要する噺である。久しぶりにやると、必ず太ももが筋肉痛になる。
幇間は、とにかくお客様からお金をもらって生活している。お客様をしくじってしまうとお金が稼げないのだ。なので、どんな無理難題にも立ち向かうのである。『たいこ腹』では若旦那にお腹に鍼(はり)を打たれ、『鰻の幇間』では、まずい鰻を食わされた上に代金を払わされる。いつも大変な思いをするのだ。
だけど、この噺が一番過酷かもしれない。崖下で小判を拾って、戻ったかと思いきや「忘れてきた」である。その辛すぎる幇間の結末が落語なのだ。
ちなみに愛宕山は全国にあるが、この噺に登場するのは、本山である京都のものを指す。元々は上方落語で、京都祇園の幇間と旦那の話で、地理的にも自然である。
ところが、江戸落語でやる場合は、江戸の旦那と幇間が京都の愛宕山を訪れているという設定になっている。三代目の三遊亭圓馬が江戸落語に移入したと伝わっている。
江戸から京都に行くだけでも当時は大変だったと思うので、この旦那は相当な金持ちとみえる。小判をかわらけの代わりに投げるくらいだから、お金は捨てるほど持っているのであろう。現在でいえば、一万円札を紙飛行機にして飛ばしているようなものである。

▼林家はな平 公式Webサイト
▼林家はな平 X
(毎月6日頃、配信予定)
●演目一覧(2026年10月時点 / 計54席)
あ行 明烏 愛宕山 あたま山 一分茶番 井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿 お見立て 親子酒
か行 火事息子 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚 権兵衛狸
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 松竹梅 崇徳院 粗忽長屋 そば清 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 天狗裁き 道灌 時そば
な行 二番煎じ にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 棒鱈 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆 百川
や行 四段目 淀五郎
ら行
わ行
―― 林家はな平『オチ研究会 なぜこのサゲはウケるのか?』連載一覧
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