堀の内、 時そば、 看板のピン
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十一回
- 落語
林家 はな平
2026/03/06
三十二席目 時そば (ときそば) ★★
[ワンポイント]
まずは江戸の時計事情から。その当時は、夜の22時頃を「四つ」、深夜0時頃を「九つ」と言っていた。これを利用して、客の男がそば代を少なく払う。だが別の男が同じ策を試すと、時間帯の違いが思わぬ差を生む。
◆【あらすじ】
冬の寒いある日、男Aが二八そば(にはちそば)の屋台を呼び止めて、しっぽくを注文する。男Aは行燈(あんどん)を褒め、割り箸や器や味も褒めて上機嫌に勘定を払おうとする。そば屋Aが手を出して、そこに一文銭を1枚ずつ出す。
男A 「一(ひー)、二(ふー)、三(みー)、四(よー)、五(いつ)、六(むー)、七(なな)、八(やー)、そば屋さん、今なん時だい?」
そば屋A 「九つです」
男 「十(とお)、十一、十二、十三、十四、十五、十六」
と、一文をごまかして帰って行く。
これを見ていた間抜けな男Bが同じことを真似しようと、次の日に小銭を支度して試そうとするが…
◆【オチ】
男Bが呼び止めたそば屋は、前日とは違って元気がなく、行燈もでたらめ、箸は割れてるは、器が欠けてるは、つゆも辛すぎて、そばはうどんのように太くてだるだる。食べきれないほど不味かったが、そこは気を取り直して、お勘定をする。
男B 「一、二、三……七、八、そば屋さん、今なん時だい?」
そば屋B 「四つです」
男B 「五、六、七、八……」
◆【解説】
江戸の時刻は、日の出と日没を基準に1日を昼と夜に分け、それぞれを6等分して時刻を決める「不定時法」が使われていた(下の図を参照)。
1日をおおよそ2時間ごとに区切り、夜中の0時を九つ、2時を八つ、4時を七つ、6時を(明け)六つ、8時を五つ、10時を四つ。そして正午がまた九つ、14時を八つ、16時を七つ、18時を(暮)六つ、20時を五つ、22時を四つで、また0時に九つに戻る。
前半のそば屋Aは、時間を聞くと「九つ」と言ったので、深夜の0時頃に食べたわけだが、後半のそば屋Bは「四つ」と答えているので、夜の22時頃に食べに行ったわけだ。ちなみに「四つ」は「よつ」と言い、「よっつ」とは言わない。
ここまでわかった上でオチを理解している人は少ないと思う。というわけで★★(二ツ星)にした。落語の演目の中ではトップ5に入る有名なオチである。江戸時代ならオチの意味を瞬時に理解できただろうが、現代では初めて聞いて意味がわかる人は少ない。だが、この噺はオチの面白さよりも途中のそば屋とのやり取りや、後半の不味いそばを食べるところなど、工夫どころが満載で、やはり頻出の演目になっている。私も冬場にはよく高座にかける演目である。
ちなみに、花巻は海苔で、しっぽくは竹輪(諸説あり)だ。以前、方々のそば屋を巡ってこれらを探したが、あるのは花巻だけで、この演目に出てくるしっぽくは見つけたことがない。そばに竹輪が乗っているわけだから、江戸時代の庶民が食べるものとしてはいいが、現代では廃れてしまったのかもしれない。
上方だと『時うどん』になり、最初に食べに行く客が二人になっている。江戸版と違い、漫才の掛け合いのようなコミカルなテイストになっているので、聴き比べると楽しい。
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