好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(前編)

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第48回

好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(前編)

一龍斎貞奈 近影(講談協会HPより)

瀧口 雅仁

執筆者

瀧口 雅仁

執筆者プロフィール

遠回りして気づいた、本当にやりたかったこと

 注目し続けている若手講釈師がいる。一龍斎貞奈がその人である。早くからAIを駆使した新作講談を作り、最近では自分の企画の一つとしてスマホ教室を開いたりと、いささか古い表現かもしれないが、文明の利器と言おうか、最先端の技術を利用して、新しい講談のあり方を模索している。そして講談の未来に常に目を向けている貞奈に今、何が見えているのか。

 講釈師という道を選んだきっかけに始まり、講談に何を見出そうとしたのか。それを尋ねることを今回のインタビューのきっかけとした。

貞奈 小学生の頃から、アナウンサーやナレーターといった喋る仕事をしたかったんですけど、大学も遊んでいただけで、就職先も広告代理店の下請けであるマーケティング系の会社だったんです。

 広告を作る仕事だったんですが、徹夜してまで働いているのに、世の中に出ていけないというのは違うなと思って、やっぱり世に出る仕事をしたかった。そこでナレーターという仕事があると思って、養成所に入って出会ったのが、一龍斎春水(はるみ)先生だったんです。先生が所長を務めている養成所でした。

 それで春水先生が特別授業に来てくださって、いつも発声練習代わりに『三方ヶ原軍記』を教えてくださったり、先生が出演される講談会に呼んでいただいたりして、その時に師匠となる(一龍斎)貞心(ていしん)に出会ったんです。その話し方から情景が思い浮かぶし、「もし自分が話芸をさらに磨くなら、貞心先生の元で学んでみたいなぁ」と。

 でも、夢が叶ってナレーターの事務所に所属できたので、当初は「職業として講談師になる」という考えはなかったのですが、だんだんとナレーションの仕事に行き詰まっていき、「このまま受け身の仕事では生きていけない」と思い始めました。それに喋る機会もない。

 ナレーターって、事務所に入ってきた仕事だけで営業もできないので、何か自分から進んで喋る仕事がないかと考えた時に、「講談という仕事があったなあ」と思って。それであれば、師匠の貞心のところがいいと思ったので、春水先生にご紹介いただきました。

 師匠のところで10ヵ月くらいカバン持ちをしていたんですが、その間に田辺凌天(たなべりょうてん)姉さんや何人かが入門したので、師匠から「いつまで迷ってんだ。どうするんだ?」と言われて、「入ります」と決めたのが、2016年(平成28年)の4月でした。

貞奈 商学部会計学科で、簿記サークルにも入っていました。

貞奈 だって、私、簿記3級もギリギリ合格できたくらいで、簿記2級も7回くらい受けて、17点しか取れなかったんですよ(笑)。試験が始まると、みんなが電卓を叩き始めるんですが、何を計算しているんだろうというくらい、計算の仕方もわからない(笑)。だから無理だと思いました。