一分茶番、 棒鱈、 権兵衛狸
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十六回
- 落語
林家 はな平
2026/08/06
四十八席目 権兵衛狸 (ごんべえだぬき) ★★★
[ワンポイント]
人間と狸が普通に言葉を交わす世界観は、落語では決して珍しくない。この噺もその不思議さを深く考える必要はない。夜中のいたずら、床屋の機転、そして狸の図々しさを素直に楽しめばよい。昔話のような素朴な空気と、軽妙な掛け合いが心地よい一席である。
◆【あらすじ(林家はな平改作・博多弁バージョン)】
九州のとある田舎の床屋の権兵衛がのどかに暮らしている。
夜中に一人で酒を飲んでいると、「ごんべぇ、ごんべぇ」と戸を叩いて訪ねてくる者がある。ところが、戸を開けてもそこには誰もいない。これが何度か続いて、狸の仕業だと悟った権兵衛は、間合いを見計らって戸を開けて狸を捕まえ、縄で縛り上げる。
そこへ隣村の正作が訪れる。この狸は村で噂になっているいたずら狸で、狸汁にして食おうと持ちかけるが、権兵衛は殺生はしたくないと、助ける代わりに頭の毛を剃って逃がすことにした。
反省して、もういたずらはしないだろうと思っていたが、その晩また狸が戸を叩いて訪ねて来る。今度は「ごんべさん、ごんべさん」と丁寧な言い方をしている…
◆【オチ】
権兵衛 「また狸公やな。あいつは畜生やけん、分からんとやな!」
怒った権兵衛は割木(わりき:丸太を割った薪)を振り上げながら戸を開けると、今朝のくりくり坊主の狸が、
狸 「ごんちゃん」
権兵衛 「何がごんちゃんや。分からんやったら、分かるようにコブの一つもこさえたるばい」
狸 「いやいや、親方違うとよ」
権兵衛 「何が違うとや」
狸 「頭やってもらったばってん、ヒゲがまだ残っとるばい」
◆【解説】
私がやる博多弁バージョンで書いたが、本来は“とある田舎”が舞台で、なんとなく東北訛りのような喋り方で繰り広げられる。
実はこの噺は大阪の方から教わった。なので初めはすべて上方弁であった。上方弁をそのまま東北弁に変えるのが難しく、一旦江戸弁に戻してからそれを東北訛りに変えていくという作業をしていた。ところが、これが意外と大変。
一人で四苦八苦していると、それを見た妻から一言。
「落語は、博多弁でやったらダメなの?」
目から鱗だった。そういえば、先輩方の中にも故郷の方言で落語を作り変えている人もいるので、私の地元である博多弁でもできないことはないなと思い至る。
上方弁と博多弁の相性がとても良く、江戸弁を経由することなくどんどん博多弁に翻訳できた。大きく見ると、上方も博多も西日本の訛りなのである。これが博多弁バージョンができた経緯だ。
この噺は地元福岡でやるよりも、東京でやる方が圧倒的にウケる。博多弁の新鮮味が福岡より東京の方があるからかもしれない。通常のオチは狸が「今度はヒゲを当たってくんねえ」と江戸前になっている。
「頭やってもらったばってん、ヒゲがまだ残っとるばい」
同じ内容を言っているのに、オチの余韻が少し違う。私の方がやや説明くさくてくどいが、そのねちっこさが気に入っている。

▼林家はな平 公式Webサイト
▼林家はな平 X
(毎月6日頃、配信予定)
●演目一覧(2026年10月時点 / 計54席)
あ行 明烏 愛宕山 あたま山 一分茶番 井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿 お見立て 親子酒
か行 火事息子 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚 権兵衛狸
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 松竹梅 崇徳院 粗忽長屋 そば清 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 天狗裁き 道灌 時そば
な行 二番煎じ にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 棒鱈 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆 百川
や行 四段目 淀五郎
ら行
わ行
―― 林家はな平『オチ研究会 なぜこのサゲはウケるのか?』連載一覧
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〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
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2026/01/25