あの夏の夜、前座たちは海を目指した
「エッセイ的な何か」 第15回
- 落語
三笑亭 夢丸
2026/08/21
師匠に内緒で行った九十九里浜。翌日届いたメールには…(画:三笑亭夢丸)
チューウチュウチュチュ!!!
……ということで、今回いただいたのは『夏の前座修行』というテーマでございます。
我々、落語芸術協会では、六月~九月までは楽屋で浴衣を着用。『そりゃあ、粋でいいじゃないか』とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、そもそも前座は浴衣を数多く持っているわけではないので、着た切り雀。
こまめに洗濯もできず、ましてやパリッと糊のきいた物など望むべくもなく、毎年ヨッレヨレの薄汚い浴衣姿で夏の楽屋を過ごすことに。(あくまでも個人の感想です)
そんな清涼感とはほど遠い、汗にまみれた楽屋での夏を送っていた我々だって、若い盛り。修行中の身ではあるが、『何か青春したい!』と思うことだってあったのだ。
あれは忘れもしない、浅草演芸ホール昼席。
前座のメンバーは、花助・小まさ・春夢・可女次・喜太郎というメンツであった(現在の名前は順に、小助六・小柳・夢丸・可風・桃之助)。ああ、今年も楽屋仕事に追われたまま夏が終わっていく……と、ここで誰が言ったかは失念してしまったのだが、「このまま去りゆく夏を見送ってしまうのか!?」と言い始めたのである。
そこで考えたのが、昼席の前座勤務が終わってから、翌朝の昼席出勤までの空白の時間を使って、どこかで一泊して夏らしいことをしよう、という企てであった。あくる日また素知らぬ顔で楽屋に戻ってきて、黙々と働いていれば問題はないだろう……ということである。
個人的に僕は前座期間中、毎日、師匠宅へ行くことを義務づけられていた。昼席勤務の場合は終演後、夜席勤務の場合は開演前に。しかし、こんな心躍る計画を聞いてしまったらもう、いても立ってもいられぬ。
師匠には「申し訳ございません。昼席終演後に別な落語会の前座に呼んでいただきまして……」と伝えた。
大嘘つき!
まあ、時効なので許してほしい。自慢にはならないが、後にも先にも、前座時分にでっち上げの仕事をこさえて師匠宅に行かなかったのはこの時だけである。(本当に自慢にならない)
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