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あの夏の夜、前座たちは海を目指した

「エッセイ的な何か」 第15回

 唯一、車を所有していたのが、小助六兄さんだった。しかも大きめのボックスカー。大人数での移動は、おあつらえ向きだ。

 計画段階で「夏と言えば海! とりあえず海に行こう!!」という運びとなった。

 もちろん前座なので金はない。夕方出かけて、翌朝帰って来られるような距離を調べ、九十九里浜を目指す。そして、その近辺にある雑魚寝ができるスーパー銭湯で一泊し、早朝に戻る計画を練った。

 決行当日。

 前座たちがこっそりと車に乗り込んで、海を目指す――。あの時の、なんとも言えない高揚感は忘れがたい。あと、少々の背徳感も。

 別に何をするわけでもないのだけれど、もう夏に海に行くだけで前座としては非日常なのだ。使うあてのない水着など誰も所持しておらず、テンションに任せて、そのまま海に飛び込む。

 夏の海とはいえ、日没後。その人っ子一人いない海岸ではしゃぐ前座ども。

 途中、テンションが上がりすぎて馬鹿になった小柳兄さんが、我々に向けて打ち上げ花火を乱射。その中の一発が、僕のパンツと太ももの隙間をすり抜けて内部に入り、股間で爆発するという奇跡が起こったりもしたが、唯一前座期間中に青春を謳歌した一日だったかもしれない。

 以前、同級生と「海に行こう!」と年に数日しかない休みを使い、『大森海岸』という駅名の字面(じづら)だけでそこに降り立ち、競艇場しかなかったという海水浴未遂の苦い過去もあったが……。

 その後、スーパー銭湯に移動。着ているものがビショビショになってしまったので、車中は替えのパンツ一丁で過ごす。嫌な形だ。

 スーパー銭湯にて雑魚寝した翌朝の帰り道、渋滞に巻き込まれて一同肝を冷やしたが、何とか無事に寄席に戻り、朝から寄席の前座を務めたのだった。

 終演後は、師匠宅へ。昨日海に行っていたことがバレてやしないかと相当ドキドキしていたが、それについての言及はなかった。