自己紹介 ①
三遊亭朝橘の「朝橘目線」 第3回
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おじいちゃんは、怒らなかった
幼稚園での思い出で忘れられないのは、父の日のプレゼントを製作した時のこと。紙粘土でできた、カニの形をした灰皿に色を塗ってお父さんに渡しましょう、という企画でした。灰皿というチョイスがいかにも昭和です。
皆さんはカニを描いたら、何色に塗るでしょうか? 普通は赤ですよね。自分の機体を必ず赤く染めるあの人じゃなくても、カニと言ったら赤。子ども向けの絵本や教材、何を見ても大体同じです。その時、同じクラスのお友達もみんな赤く塗っていました。
ですが私は、濃い目の紫色に塗り上げました。理由は、思い出せません。悪意ではなかった気がします。家に持ち帰り、親に渡したら「なぜこの色にしたのか」と、散々な言われようでした。
幼稚園の先生から注意された記憶はないのですが、気づいた時にはもう手遅れだったのかもしれません。私が可愛いあまり、指導できなかった可能性も否定できませんが。
でも、よく考えてみると、カニは火が入ると赤くなるもので、加熱前はむしろ紫の方が近いのでは……。そこまで思って塗っていたのなら大したものですが、これはもう生涯、謎のままです。
母方の祖父から贈られた誕生祝いのオモチャをもらったその場で壊した時も、周りの大人、親だけでなく母方の伯父・伯母など、祖父以外の全員から罵声を浴びせられたのをよく覚えております。
「これ、5000円もしたのに」
5000円という具体的な金額を、はっきりくっきり記憶しております。当時の5000円、今のいくらくらいなんでしょう。とにかく高価な品物だったのは間違いないです。
ただ一人、私を責めなかった母方の祖父は、私が最も尊敬する人生のお手本です。自分も年を取ったらあんなじいちゃんになりたい、ずっとそう願って生きてきました。
祖父は落語も大好きで、私が噺家になると宣言した際、親戚一同でただ一人「自分の進むべき道を見つけたね」と喜んでくれました。現状、温厚な祖父には程遠い人間のまま、年を重ね続けております。