2025年7月のつれづれ(沢村豊子の急逝、広沢美舟の10周年)
杉江松恋の月刊「浪曲つれづれ」 第3回
- 連載
- 浪曲
後進の育成と一門の拡大
2021年に第42回松尾芸能賞功労賞を受賞、記念の会ではにかみながら祝福の花束を受け取られる姿が印象的だった。浪曲は人柄が舞台に出る芸であるが、それを本当に感じさせてくれる三味線であったと思う。自由奔放、しかし決して我を張るような嫌味はなく、常に節と融け合って聴く人の心に化学反応を起こした。何よりも美しい音色であった。
その人柄と芸を慕って入門した者は多い。一番弟子の沢村さくらは2000年入門、現在は関西在住で真山隼人の相三味線を務めている。修業時代に生前の国友忠からも教えを受けた唯一の弟子である。
その後は少し間が空き、二番弟子は2015年に入門した広沢美舟である。若手という存在を抜けて関東浪曲界を支える重要な柱になりつつある。三番弟子が2019年入門の沢村まみ、以下2020年3月入門の沢村道世、同7月入門の沢村理緒、12月入門の沢村博喜と続く。
道世から博喜の入門期は新型コロナウイルス流行もあって浪曲の舞台と観客の距離が遠かったため、いつの間にか沢村一門が増殖していて、ファンはおおいに驚かされた。
沢村豊子、永遠の至芸
6月24日通夜、25日告別式、茨城県古河市で行われた葬儀には芸人・関係者のほか、沢村豊子を愛したファンが多く来席した。最後は国友忠・沢村豊子の代表作「銭形平次捕物控 雪の精」が流れる中での出棺である。沢村豊子20代の透きとおった音色を聴きながら、私も至宝の旅立ちを見送った。
言いようのない寂しさがある。沢村豊子という存在は何をもっても代えがたい。だが、浪曲は今日も明日も続いていく。至芸を受け継ぐ者たちの奮起に期待したい。
相三味線を失った心痛はいかばかりかと思うが、玉川奈々福は7月に大一番を迎える。7月19・20日(土・日)、東京・銀座の観世能楽堂で開催される「奈々福、独演。銀座でうなる、銀座がうなるvol.6」である。
19日は能楽師の安田登をゲストに「古典を語り、史実を騙る」のテーマで「茶碗屋敷」(野村甫堂作)「シン・忠臣蔵」(柳家喬太郎原作)の2席を、20日は作家いとうせいこうを招き「古典を遊び、純文学を語る」と題して国本武春譲りの「英国密航」と「桜の森の満開の下」(坂口安吾原作)を唸る。
1995年7月7日に二代目玉川福太郎に入門した奈々福は、今年芸人生活30周年を迎える。節目の会、胸には期するものがあるはずだ。19日は夜公演で18時開演、20日は昼公演で13時開演である。