鈴之助の弟子入り志願物語 (前編)
鈴々舎馬風一門 入門物語
- 落語
六本木、夢のにおいがする場所
当時は、芸人を目指すことが現在のように容易ではなく、芸人養成学校などもありませんでした。そこでキラ星の芸能人が集まる場所はどこかと考えた結果、六本木に何かチャンスがあるのではないかと思い、芋洗坂を下った場所にあるニコマートというコンビニで、バイトをしながら情報を集めることにします。
偶然にもそのコンビニの2階には、コロッケさんが経営するショーパブがありました。買い出しに来たコロッケさんに「お笑い芸人を目指してます」と声をかけると、「頑張って!」と励ましの言葉とサインまでいただけました。その瞬間、「自分の読みは間違ってなかった」と強く確信します。
その後、当時まだ防衛省があった、現在の六本木ミッドタウン前のクラブで黒服として働きながら、芸人になるチャンスを探し続けます。しかし、芸人への道は予想以上に厳しく、明確な手応えを得られないまま、悶々とした日が続きました。
そこで人脈を築く有効な方法はないかと考え、テレビ局なら何かあるのではと、NHKで小道具のバイトを始めます。当時、渡辺謙さんが主演を務める大河ドラマ『独眼竜政宗』の刀や防具などの準備を担当しましたが、仕事が非常に厳しく、タレントとの接点もなかったため、早々に辞めてしまうことになります。

コロッケさんからいただいたサイン
大道具という、もうひとつの舞台
その後、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気番組を数多く製作していたフジテレビで、大道具の契約社員として働くことになります。中学生時代、オーディションへの参加などで親しみを持っていたフジテレビは、私にとって特別な場所でした。
大道具は大きく2つの部門があり、私の所属先は『オレたちひょうきん族』や『志村けんのだいじょうぶだぁ』などの看板番組を多数担当する部門でした。そのため、入社時の期待は非常に大きく、「これで夢に一歩近づける」と期待に胸を膨らませます。
収録セットを組む仕事の中で、「ここであの番組が撮られていたんだ」と感慨に浸る日々。ただし、番組専属の担当大道具になると収録に参加してコントを生で見られるのですが、私みたいな入ったばかりのペーペーは、収録前のセットの組み立てと収録後の撤去作業しか担当できませんでした。
職場がテレビ局なので、スタジオ間を移動する際にアイドルやタレントとすれ違うこともあり、心の中ではハイテンション。でも、田舎者に見られないように平静を装って通り過ぎるように心掛けました。
『ミュージックフェア』の収録時に補助作業でスタジオに入る機会があり、和田アキ子さんを間近で拝見したことがありましたが、その身体の大きさだけでなく、圧倒的な存在感に感銘を受けたことを記憶しています。