鈴之助の弟子入り志願物語 (後編)

鈴々舎馬風一門 入門物語

芸を授かり、人を教わる

 そんなこんなで修行が続き、なんとか噺家らしくなって、やっと師匠のお付きとして仕事に初めて同行させていただいた時、帰りの電車の中で師匠からこう言われました。

 「俺は一度弟子に取ったら、よほどのことをしない限りクビにはしない。だからカミさんだけはしくじるなよ。カミさんをしくじって“あの子はダメ”と言われたら、俺は助けられねぇから。カミさんだけは、しくじるなよ」

 ――その優しい口調が、まるで昨日のことのように思い出されます。

 寄席に前座として入った時、先輩たちからは「よく馬風師匠のところに入ったね」と言われるほど、うちの師匠は強面(こわもて)で、怖がられていました。けれど、師弟の関係にならなければ分からない師匠の度量の深さに触れ、「この人の弟子で良かった」と思います。

 そして、大師匠・五代目柳家小さんの「芸は人なり」という言葉は、まさにその通りで、自分の未熟さを痛感しています。

 このご時世、師匠を持たずとも簡単に芸人を目指すことはできます。師匠につくのは、大変で面倒だと思うかもしれません。でも、もし今その道を迷っている人がいるのなら、間違いなく、師を仰ぐほうがより深く、長い経験を学ぶことができ、人間性に厚みが増します。

 本当に何も知らなかった自分が、芸人として今日までやってこられたのは、辛抱強くご指導いただいた師匠とお内儀さんのおかげです。

 心から感謝申し上げます。

真打に昇進したころの筆者

(了)